親善試合の会場にたどり着くと、そこは既に盛り上がりを見せていた。
廊下まで人々の威勢のいい声が飛び交っている。
〇〇「今回、こよみの国と四季の国の方々は、初めてクライヴァーをされるんですよね?」
カノエ「ああ、協会側から声をかけてもらってな。見聞を広げるためにも参加させてもらった。 歴史を重んじるこよみの国だが……新しい文化を取り入れることも必要だからな。 皆で話し合ったんだ」
強い眼差しには、王子としての気概が感じられる。
カノエ「協会側も俺達の文化を尊重し、衣装やフィールドの造形に取り入れてくれた。 ……ありがたいことだ」
〇〇「そうだったんですね。フィールドを見るのが楽しみです」
カノエ「俺もクライヴァーに触れてみたかったし、楽しみにしていた。それにお前が来ていると聞いて…―。 ……」
言いかけた口を閉じたカノエさんの頬が、少しだけ赤く染まった。
〇〇「カノエさん?」
カノエ「いや……気にするな」
〇〇「でも……今、何か言いかけてませんでしたか?」
カノエ「なんでもない」
歯切れの悪い言い方が気になってしまい思わず追及すると、彼は戸惑ったように視線を泳がせる。
そして一つ息を吐いた後、私に視線を戻して……
カノエ「……とにかく、俺も楽しみにしていたということだ」
話を打ち切るように、そう強く言い切った。
〇〇「……」
(誤魔化されたような気がするけど……)
それ以上の追及はやめ、私は話をクライヴァーに戻した。
〇〇「私も楽しみにしていました」
カノエ「そうなのか?」
〇〇「はい」
(カノエさんと一緒のチームだって聞いてたし……)
けれどそのことは、はっきりと告げられず…―。
〇〇「一人じゃないですし……」
カノエ「そうだな」
少しの間見つめ合う形になって、胸が騒いだ。
カノエ「じゃあ、早速フィールドへ下りて練習を始めるか。 準備不足で怪我でもしたら、目も当てられない」
〇〇「そうですね。頑張ります」
(カノエさんとなら、練習も楽しめそう)
カノエさんが先に立って歩き出す。
その広い背中を見つめながら、私はこれから始まる時間に胸を弾ませたのだった…―。