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ラス『ねえ、オレとデートしてよ』
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ラスさんからデートに誘われた翌日…-。
幸せそうに歩く恋人達を横目に、私は待ち合わせ場所にたどり着いた。
(ラスさんは……)
待ち合わせ時間にはまだ早く、当然彼の姿はない。
(さすがに早すぎたかも)
昨日と同じように冷えた空気の中、苦笑していると……
ラス「〇〇」
〇〇「……!」
不意に後ろから抱きしめられて、思わず息を呑む。
けれど、それは聞き覚えのある声と温もりで……
〇〇「先に来てたんですか……?」
ラス「うん。キミに寒い思いをさせるわけにはいかないからね。 来たらすぐに温めてあげられるようにって思って、早く来たんだ」
耳に吐息が触れて……その甘い温もりに、酔わされそうになる。
〇〇「も、もう温まったから大丈夫です……!」
ラス「えー? まだ冷たいよ? ほら」
〇〇「ラスさん……!」
冷たくなった頬に彼の頬が重なり、心臓が大きく跳ねた。
ラス「ふふ、ごめんごめん。今日はせっかくのデートだし、そろそろ行こうか」
ラスさんは腕を解いて、こちらに手を差し出す。
ラス「あ、今日は力を使おうなんて思ってないから……安心して。ね?」
(え……?)
ラスさんは『色欲』の監獄を管理する王家の王子で……
その色欲の力に、これまで多くの女性が魅了されてきた。
(どうして、いきなりそんなことを言うんだろう)
(もしかして私が怖がってるって思ってるのかな……?)
ラス「歩いてる間は、抱きしめてあげられないから……せめて手だけでも温かく、ね?」
安心させるように優しい声音で言う彼に私は……
返事の代わりに、私はそっとラスさんの手を取る。
ラス「ふふ。こういうの、なんかいいね」
手を繋いだ私達は、ゆっくり歩き始める。
…
……
そうして、連れられるままに訪れたのは…―。
〇〇「スレッドツアー?」
ラス「そう。この乗り物に乗って、アルビトロの雪景色を楽しむんだ」
それは、クリスマスの施策の一環として行われているものらしい。
(なんだかサンタクロースみたいで楽しそう)
ソリのような形をした乗り物を見ていると、それだけでわくわくしてくる。
(あれ? でも……)
〇〇「ラスさん、アルビトロには公務で来たって言ってましたよね? どうしてこんな場所を知ってるんですか?」
ラス「調べたんだよ。せっかくのキミとのデートだからね」
当然のように言って、切れ長の目を細める彼に……心音が、密かに跳ねる。
そうしているうちに、順番が回ってきて…-。
ソリのような形の乗り物は、ゆっくり進み始め……やがてスピードに乗って雪の上を滑り出した。
〇〇「結構スピードがあるんですね……!」
ラス「うん。でも、思った以上に楽しいね」
〇〇「はい! 雪景色も綺麗ですし、すごく楽しいです……!」
けれど、その時……
〇〇「!」
突然、顔に雪しぶきがかかる。
ラス「あははっ! 顔、真っ白」
見れば、ラスさんにもたくさんの雪がかかっていて……
〇〇「ラスさんの顔にも雪がついてます」
彼の顔に手を伸ばし、雪を払う。
ラス「ありがとう。それじゃあオレも」
私の顔についた雪は、ラスさんが優しく払ってくれた。
(ラスさんのこんな笑顔が見られるなんて……嬉しい)
楽しそうな彼の姿を見ていると、心が満たされていく。
そうして、しばらくアルビトロの景色を楽しんでいたものの……
気づけば乗り物のスピードは、かなり速くなっていた。
(少し怖いかも……)
恐怖心から、私は思わず身を固くする。
けれど、その時…-。
ラス「……遠慮しないで、もっとこっちに来なよ」
〇〇「……!?」
突然ぐっと腰を引き寄せられて、ラスさんと密着する。
ラス「うん、温かい。 それに……こうした方がキミも安心でしょ? なかなかのスピードだもんね、これ」
〇〇「あ……」
(もしかして、私が怖がってるのに気づいて……)
ラスさんは、私を安心させるように微笑んでいる。
その優しさに心が温まるのを感じながら、私は彼の肩に頭を預けたのだった…-。