ダンスレッスンの翌日・・・・ー。
(ちょっと靴擦れしただけなのに・・・・)
私の足を心配したセフィルさんは、この日ダンスレッスンをお休みにしてくれて、
かわりに私達はダンスパーティー用のドレスを仕立てに、城下へとやってきていた。
店主「こちらの生地など、お肌の色がよりお美しく見えるかと」
(わぁ・・・・どの布も綺麗)
店員さんが、次々と生地を当ててくれる。
けれども私は、いそがしく目を瞬かせるばかりだった。
セフィル「店主、〇〇様が目をまわしてしまうよ」
クスクスと笑みをこぼして、セフィルさんが私のすぐ後ろに立った。
セフィル「これと、これ、それから・・・・そちらのシルクも持ってきてくれ。 では、これを全て」
〇〇「えっ」
セフィル
「形は・・・・そうだな。 首が華奢だから、際立たせるように・・・・」
〇〇「・・・・っ」
首筋にセフィルさんの指が触れて、私は思わず声を漏らす。
セフィル
「・・・・失礼」
優雅にまつ毛を伏せて、セフィルさんは手を離した。
答えることができずにうつむくと、セフィルさんは微かに私から距離をとった。
セフィル「では、参りましょう」
セフィルさんが、注文を終えてお店を出ようとする。
○○「あの、お支払いします」
セフィル「プレゼントさせてください」
○○「そんな。それに私、まだパーティーに出ると決めた訳ではないのに・・・・」
セフィル「どれもとても良くお似合いでしたから」
何でもないことのように言って、セフィルさんはお店を出て行く。
(セフィルさんといると、なんだか物語の中のお姫様になったみたい)
ふわふわした気持ちで、彼に続いてお店の外に出ると・・・・ー。
街人1「セフィル王子!」
セフィルさんの周りに、街の人が次々と集まってくる。
人々に向き直ったセフィルさんは、威厳に満ちた表情をしていた。
セフィル「皆、変わりはないか?」
街人2「はい!もうすぐ国交復活祭ですね!」
街人3「我々も国を盛り上げるために、店などの準備を進めております!」
セフィル「そうか」
街人1「是非、街にもいらしてくださいね!とっておきの料理を用意してお待ちしてますから!」
(皆、セフィルさんの姿を見ただけで嬉しそうな顔してる)
(本当に人望があるんだな)
威厳にあふれた姿を見つめる。
その時・・・・ー。
(あれ・・・・?)
セフィルさんの横顔が、妙に青ざめていることに気がついた。
〇〇「どうしたんですか?」
小声でささやきかけると、セフィルさんは驚いたように私を見つめた。
セフィル「どうぞそのまま・・・・皆が不安がります」
私の耳元でささやきかけると、セフィルさんは毅然として街の皆さんに向き直る。
(でも・・・・)
街の人3「セフィル王子がいてくだされば、この国は安泰ですね!」
街の人の声に笑顔で答えるセフィルさんの顔色は、どんどん悪くなっていく。
(いけない)
私は、とっさにセフィルさんの手を握る。
〇〇「・・・・セフィル王子!私、少し疲れてしまったみたいです。 お城に、帰りませんか・・・・?」
ぎゅっと手を握ると、セフィルさんの力ない視線が私に向けられる。
セフィル
「〇〇様・・・・。 失礼致しました。 さあ、参りましょう」
優雅な様子で街の人々に挨拶をすると、セフィルさんは私をふわりと抱き上げた。
そうして空へはばたくと、セフィルさんの手がだんだんと冷たくなっていく。
〇〇「セフィルさん・・・・」
セフィル「申し訳ありません。 少々、力が・・・・」
城の兵士「セフィル王子!お帰りなさいませ!!」
セフィル「ああ。遅くなってすまなかった」
宮殿に戻った後、セフィルさんは具合の悪さを周りにさとられたくないかのように、
いつものように毅然として振る舞っていた。
けれど・・・・ー。
部屋に戻ると、セフィルさんはやはりぐったりとした様子で・・・・ー。
〇〇「大丈夫ですか?今、お水を・・・・」
お水を探しに走り去ろうとすると、セフィルさんが私の手を握る。
セフィル「ありがとうございます。 ですが、それより・・・・側にいてくださいませんか」
弱々しいセフィルさんの声が、私の心をきゅっと締めつけた・・・・ー。