第2話 黒い翼の嫌われ者

眠りから目覚めた美しい漆黒の翼を持つ王子は、誰をも寄せ付けない雰囲気を纏いながら、歩みを進めていく。

(顔色が悪い……大丈夫かな)

その蒼白な顔を見ると、今にも倒れ伏してしまいそうに思えて……

私はどうしても、彼から離れることができずにいた。

??「……いつまでついてくるつもりだ」

低く吐き捨てるような調子で、ようやく口を開いてくれえる。

〇〇「ごめんなさい。心配で……」

??「構うなと言っただろう。帰れ、俺に関わるな」

迷惑そうに眉根を寄せる彼に、ちくりと胸が痛んだ。

〇〇「でも…-」

危うげなその表情が、私の心をとらえて離さない。

??「……しつこい。俺に構うなと言っている」

彼が苦しげに顔をしかめ、はっきりとした拒絶を目で示した時…-。

子ども「うわーん! 風船が飛んでっちゃったよー!」

すぐ近くから、子どもの泣き声が聞こえてきた。

見れば、子どもの手を離れた風船がふわふわと空高く上り始めている。

??「……!」

すぐに、私の傍で黒く艶やかな羽がばさりとはためいた。

〇〇「あ…-」

そのまま大きく広がり、風船を求めて舞い上がるかに思えた美しい翼は……

??「……」

(どうしたんだろう?)

彼は悔しげに唇を噛み締め、空から目を背けた。

その間に……

母親「まあ、大変! すぐに取ってくるからね」

近くにいた母親が、翼を羽ばたかせて舞い上がり、あっという間に風船を取り返してしまった。

彼女の羽の色は、雪のように真っ白い色をしている。

母親「せっかくの風船なんだから気をつけるのよ、ほらしっかり持って」

子ども「うん……うっ、ひっく。ママ、ごめんなさい……」

目の前の光景にほっとしていると……

母親「あ……」

母親は私達に気がついた途端、目を見開き顔を青ざめさせた。

母親「い、行くわよ、ぼうや。危ないわ」

〇〇「え……?」

あたふたと立ち去ってしまう母子に、呆気にとられてしまう。

(どういうこと?)

すると…-。

??「……こういうことだ」

〇〇「こういうことって……」

事態を飲み込めず首を傾げる私に、彼は憂いをたたえた視線を向ける。

??「俺に関わると、ろくなことがない」

〇〇「そんな…-」

何かを言いかける前に、彼は私に背を向けて歩き出してしまう。

その時…-。

街の子ども2「あ! 黒い翼の嫌われ者だ!」

街の子ども3「悪いことが起こるぞ! お前なんて、あっち行っちゃえ!」

〇〇「……っ!」

通りがかった街の子ども達が、私達を見るなり石を投げつけてきた。

??「……」

けれど、彼は石を投げられるがまま、何一つ言葉を発しない。

(ひどい……)

〇〇「やめて! 何でこんなひどいことを…-」

思わず大きな声であげてしまうと……

街の子ども2「わっ! 嫌われ者の友達が、襲ってくるぞ!」

街の子ども3「逃げろ!!」

子ども達は、驚いた様子で立ち去って行った。

??「……」

〇〇「あ、あの……」

(さっきの親子もそうだったけど……どうして皆、彼のことをあんな目で見るんだろう)

なんと言葉をかけていいかわからず、ただじっと漆黒の瞳を見つめていると……

??「嫌われ者の友達、か……」

(あ……)

クスリと、本当にかすかに彼が笑った気がした。

??「……すまないな」

〇〇「い、いえ。そんな……」

一瞬だけ優しげに……そして哀しげに細められた瞳に、胸が締め付けられる。

??「本当にお前は俺のことを、なんとも思わないのか」

〇〇「はい……」

彼の瞳が何かを怖がるように、けれどどこか期待をはらみながら……時間をかけて私へと向けられた。

ルシアン「……俺の名はルシアン。お前は?」

〇〇「え……」

ルシアン「お前の名は、と聞いている」

〇〇「あ……〇〇です」

ルシアン「そうか……」

(ルシアンさん……)

ルシアンさんは惑うように瞳を揺らした後、小さく息をひとつ吐いた。

ルシアン「……俺を庇ったところを、人に見られたらまずい。 それに、もう暗くなる……行く宛がないのなら、来るがいい」

〇〇「……!」

言い捨てるようにルシアンさんは言ったけれど、その背に生えている黒い翼は、どこか嬉しそうに小さく揺れていた…-。

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