ランウェイの上を、色とりどりの照明が交差する。
煌びやかな衣装をまとったモデル達が、私の前をと颯爽と通り過ぎる。
(格好いいな……)
私は、客席からファッションショーのリハーサルを見学していた。
スペルヴィア「んー……何か足りないのよね……」
モデルさんが全員ランウェイを歩いた後、スペルヴィアさんが口を開く。
スタッフ「何か……ですか」
スペルヴィア「そう。いいのよ、さすがワタシっていうか……すごくいい出来なんだけど……。 でも、何かが足りなくて。自分でもハッキリしなくて嫌になるわ」
スペルヴィアさんは、またじっとランウェイを見つめ…-。
スペルヴィア「やめた。今日は解散」
スタッフ「え?」
スペルヴィアさんの唐突な一言に、スタッフさん達からざわめきが起こる。
(スペルヴィアさん、どうしたんだろう……)
スペルヴィア「ワタシは帰るけど、やっぱり照明がまだイマイチ。 衣装に合わせて調整しておいて。明日朝イチで確認するから」
スペルヴィアさんは私に近づきながら、後を追うスタッフさんに指示を出す。
スタッフ「はい! お疲れ様でした」
大勢のスタッフさん達が、いっせいに頭を下げる。
スペルヴィアさんは軽く微笑み、私の前で立ち止まった。
スペルヴィア「お待たせ。さあ、行くわよ」
(お仕事の途中みたいだけど、大丈夫かな……?)
〇〇「いいんですか?」
スペルヴィア「気分転換も必要でしょ。それに本来なら、もう終わってる時間だし」
〇〇「あ、そうだったんですね」
スペルヴィア「それに……」
スペルヴィアさんが、そっと私に顔を近づける。
スペルヴィア「今日はさっさと終わらせて、アンタとデートしたかったの」
(デート……)
その言葉に、胸がとくんと小さく音を立てる。
言葉に詰まった私を見て、スペルヴィアさんは悪戯っぽく微笑んだのだった…-。
…
……
大きな夕陽が、街を橙色に染め上げている…-。
道行く人々は個性的なファッションに身を包んでいて、街を鮮やかに彩っている。
(記録の国でのファッションショーか……ちょっと意外だったな)
華やかに飾りつけられた街並みは、以前訪れた時の落ち着いた印象とはだいぶ違っていた。
(モデルみたいな人も多いし……)
私は、隣を歩いているスペルヴィアさんをそっと見上げた。
漆黒の髪は艶やかに輝き、黄緑と青のオッドアイが夕陽に映える。
(私も、こんなに素敵な人と一緒に歩いているんだよね……)
整った顔立ちに目を奪われていると…-。
スペルヴィア「どうしたの?」
不意に、スペルヴィアさんと視線がぶつかる。
〇〇「あ、いえ……」
私は慌てて、道行く人に視線を戻した。
〇〇「おしゃれな方が多いですね。モデルさんでしょうか?」
スペルヴィア「ファッションショーの前だしね。センスのいい子が多くて、気分が高まるわ」
スペルヴィアさんは、嬉しそうに辺りを見回す。
〇〇「皆さんもスペルヴィアさんも素敵で……やっぱりファッション業界の方はおしゃれだなと思います」
スペルヴィア「ちょっと。ワタシも、じゃなくてワタシが一番でしょ」
〇〇「あ……」
口を押える私を見て、スペルヴィアさんがくすりと笑う。
スペルヴィア「ワタシがこういう性格だってこと、アンタにはそろそろわかってほしいんだけど」
〇〇「そうですよね、あの…-」
慌てて言葉を紡ごうとした時…-。
スペルヴィアさんが唇を近づけ、そっと囁いた。
スペルヴィア「オマエのそういうところ、嫌いじゃないけど」
〇〇「……っ」
耳をかすめた低い声に、頬が急激に熱くなる。
スペルヴィアさんは、こうして突然素の話し方をする時があって……
(びっくりした……)
低い声に、どぎまぎと視線を定められずにいると…-。
スペルヴィア「さあ、行くよ」
歌うように言うと、彼は私に背を向ける。
〇〇「……はい」
歩き出したスペルヴィアさんの、綺麗に伸びた背中を見つめる。
ドキドキと音を立てる鼓動を感じながら、その後を追った…-。