今回のファッションショーは、大衆文化の記録のために記録の国主催で開かれるもので、スペルヴィアさんが総合プロデューサーを任されているらしい。
〇〇「記録の国から依頼されたんですか?」
大きなショーを任されているスペルヴィアさんを尊敬の念で見つめると……
スペルヴィア「まあ、ワタシに話が来たのは当然と言えば当然。 ブラック系の前衛的なデザインが今季の流行だし、ワタシほどの適任者はいないでしょ?」
スペルヴィアさんは、得意げに口の端を上げる。
スペルヴィア「ほら、あれ……どう?」
彼の視線を追うと、ステージを歩くモデルさん達は、個性的ながらも洗練された服に身を包んでいた。
〇〇「はい。ファッションのことはよくわからないですけど、モデルさん達の服、本当に素敵だと思います」
スペルヴィア「アンタって、本当素直ね」
そう言って、スペルヴィアさんは小さく笑う。
〇〇「でも、こんな大きなファッションショーの総合プロデューサーなんて……大変そうですね」
スペルヴィア「そうね……服だけじゃなくて、舞台のセットを見たりモデルを決めたり……。 コンセプトから演出、小道具まで全部見てるの」
〇〇「全部……。 すごい……」
目を瞬かせて、スペルヴィアさんを見つめる。
スペルヴィア「アンタにそう言われるのは、悪い気はしないわね。 ただ……」
スペルヴィアさんは、わざとらしく苦笑いして見せる。
スペルヴィア「本来なら任せるところ任せて、最終確認だけにしたいんだけど。 使えない奴が多くて、やんなっちゃう」
声を抑えようとしないスペルヴィアさんに、背筋がひやりとする。
〇〇「スペルヴィアさん、皆さんに聞こえますよ……!」
スペルヴィア「いいの、本人達にも言ってるもの。あんまり使えないようなら外すわよって」
〇〇「え……」
そっと周囲に目を向けると…-。
スタッフさん達は忙しそうに動きながらも、苦笑を浮かべていた。
スタッフ1「よく言われてますから。スペルヴィア様は厳しいので」
スタッフ2「むしろ、厳しくしてもらえるうちが花なんです」
スペルヴィア「そう。できると思ってるからしごくの。 そうじゃなきゃ、自分でやった方が早いんだから、全部自分でやっちゃう」
スタッフ1「そうですよ。スペルヴィア様の仕事の早さには本当に脱帽で…-」
スペルヴィア「ほら、口より手を動かす!」
スタッフ1「はいっ」
スペルヴィアさんの一声に、止まりかけていたスタッフさん達の動きが戻る。
それでも誰一人として嫌な顔をしている人はいなくて…-。
(『できると思ってるから』……)
(厳しくても、こういう言葉をかけてくれるから、スタッフさん達も頑張れるんだろうな)
スペルヴィア「ワタシが作るからには、最高のファッションショーにするから。絶対に……ね」
スペルヴィアさんは、晴れやかな顔でスタッフさん達を目で追っている。
それにつられるように、私の口元にも笑みが浮かんでいた…-。