月最終話 深い闇にまたたく光

それから…―。

呪いがすっかり進行してしまったゲイリーさんと私は、二人で人里離れて過ごすようになった。

街に温かそうな灯りが灯り始めると、私達も火を焚き、暖を取る。

〇〇「気になりますか……?」

ぼんやりと街を見つめるゲイリーさんに問いかける。

(誰よりも国を思っているのに……近くにいられないなんて)

ゲイリー「いや……おまえこそ、寂しいだろう。俺と、二人きりでは」

〇〇「……二人だから寂しくないです」

深い深い森の中、ひっそりと二人肩を寄せ合って過ごす。

ゲイリー「今日も、呪いを解く方法は見つからなかった。 このままでは、おまえをずっと俺に付き合わせたまま、こんな暮らしを続けさせてしまう……」

パチパチと燃えるたき火に、彼の深い闇のような瞳が光っていた。

〇〇「私はこのまま、ゲイリーさんと一緒に呪いを解く方法を探し続けたいです」

ゲイリー「そんなものは、ないかもしれないのにか?」

自暴自棄になったようにゲイリーさんが言う。

それでも私は彼に、にっこりと笑いかけた。

〇〇「あります。きっと」

精いっぱい微笑むと……

ゲイリーさんが何も言わずに私の体を抱き寄せる。

〇〇「ゲイリーさん……?」

そのまま強引に、深く口づけられた。

〇〇「んっ……」

それはまるで行き場のなくなった気持ちをぶつけるかのようなキスで……

(悲しいけど……私は、ゲイリーさんが)

彼の気持ちに答えるように、唇を重ね合わせる。

ゲイリー「○○……」

長い長いキスの後、ゲイリーさんは名残惜しむように唇を離すと、間近でじっと私の目を見つめた。

そして…―。

そのまま、再び深く彼に抱きしめられる。

ゲイリー「○○……俺は……怖いんだ。 いつ呪いの完全に支配されて、おまえや大切な人達のことすらわからなくなるのか……。 その時、俺はおまえを傷つけてしまう……いや、殺してしまうかもしれない」

〇〇「ゲイリーさん……そんなことは…―」

否定しようとすると、私を抱く彼の腕の力がぐっと強くなった。

ゲイリー「もうこれ以上、そんなことが考えられないように……。 俺の心をお前で埋め尽くしておいてくれないか。 敵意も憎悪も、入らないくらいに……」

悲しくて切ない声色に、私の心が揺さぶられる。

〇〇「……」

(ゲイリーさんが、望むなら……)

ゆっくりと、首を縦に振る。

ゲイリー「今まで、歯止めが利かなくなるのが怖かった……。 だが、今はどうしてもお前に触れたい……いいか?」

〇〇「……はい」

ゲイリーさんが、火照った唇を、指先で誘うようになぞる。

甘い声が自然とこぼれ、ひどく心の奥が切なくなった。

息が上がっていく。

頭の中がぼんやりとして何も考えられなくなっていく。

(ゲイリーさんが……好き……)

そのことだけで、体中が埋め尽くされていくようだった。

ゲイリー「○○……」

恥ずかしさで伏せてしまった顔を、ゲイリーさんが優しく上げる。

ゲイリー「俺から目を逸らさないでくれ……今も、これからも」

目の前に現れた深い闇の瞳は、今はこの夜空の青のように深く澄んでいた。

(何て孤独な瞳……)

いつだって二人でいるのに、こんなにも傍にいるのに、どうしてこの人はいつも、こんなにも悲しい目をしているんだろう。

そして……

〇〇「んっ……」

その感情の全てをぶつけるようなキスが、また降り注ぐ。

今度は唇に、そして違う場所へも。

ゲイリー「……悪い」

〇〇「えっ?」

彼は、私を大きな木に押し付ける。

〇〇「ゲイリーさん……?」

彼の視線を受け止められずに再び顔を伏せると、

ゲイリー「もう、止められない」

彼は私の唇を舌でこじ開けた。

(息が……)

こぼれ出る吐息さえも奪うほどのキスは、私の思考を奪っていく。

ゲイリー「○○……」

やがて、彼の唇は私の首筋を伝いはじめる。

膝がくずれ落ちそうになると、彼の腕が私の腰元を抱き寄せた。

〇〇「……っ」

恥じらいに抗おうとすると、彼の瞳が私を見つめた。

(孤独な瞳……)

ゲイリー「俺の心を……お前で満たしてくれ」

それ以上抗うことができず、私はそっと瞳を閉じる。

(……愛しい)

彼の腕が私を強く抱きしめて……

(ゲイリーさん……)

声にならない彼の名前は、私の胸を暖かく染めていく。

(この熱に……溺れそう)

彼の腕に身を委ねながら、彼の潤んだ瞳を見上げながら、本当に夜空のようだと思った。

深い深い闇。けれどもまたたく光が確かに存在する。

(きっといつか幸せになれる……)

星が輝く夜空の下、私は祈るようにそう思った…―。

おわり。

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