旅の途中で襲われた野盗から、偶然にも、ゲイリーさんに助けてもらえた。
そして今も、私がさっきの恐怖から落ち着くようにと、傍にいてくれている。
○○「助けてくれて、本当にありがとうございました」
ゲイリー「いや、礼はいい。俺もおまえに助けられた身だからな」
ふっとゲイリーさんが優しく笑う。
その笑顔に、再会した喜びを改めて感じた。
(また、会えて嬉しいな)
つい先日、ゲイリーさんを目覚めさせたけれど、彼はお礼をひとこと言って、すぐに立ち去ってしまったのだった。
ゲイリー「しかし、なぜこんな森に? ここは危険だ」
○○「クレアブールの王子様にご招待を受けて、首都へ向かう途中だったんです」
ゲイリー「……」
その言葉に、ゲイリーさんは表情を険しくさせたけれど、それ以上は何も言わなかった。
○○「ゲイリーさんも、どうして森の中にいたんですか?」
ゲイリー「ああ、それは……」
○○「ゲイリーさん?」
ゲイリーさんが、困ったように言い淀む。
ゲイリー「俺も今、旅をしている。そうしながら、困っている人々を助けているんだ。 さっき襲ってきた奴等は、国政を良く思わない者達だ。今、クレアブールは荒れている」
○○「そうだったんですね……でも、ゲイリーさんは王子様なのに? てっきりご自分の国に帰られたのかと」
そう言うと、ゲイリーさんが顔をそっと伏せる。
ゲイリー「……いろいろと訳ありでな」
長く濃いまつ毛が憂いを帯びたように震えて、なぜだか胸が締めつけられた。
ゲイリー「それよりも、落ち着いたようだから移動しよう。ここにいればまた危ないことがあるかもしれない。 簡素な場所だが、身を寄せているところがある」
○○「はい、ありがとうございます」
ゲイリーさんが案内してくれた場所は、確かに王子様が身を寄せるにしてはとても簡素な建物だった。
ゲイリー「トロイメアの姫を招待するには、とてもむさ苦しいところだが」
○○「そんなことないです! ありがとうございます」
その後、ゲイリーさんは温かい飲み物を用意してくれて、やっと心から落ち着くことができた。
そんな私を見てゲイリーさんが、ぽつりとつぶやいた。
ゲイリー「またこうして再会できたのも、おまえを助けることができたのも喜ばしいことだが……。 一刻も早くクレアブールからは立ち去った方がいい。悪政によって治安が乱れている」
(ゲイリーさん……)
○○「……わかりました」
小さく頷くと、ゲイリーさんがほっと息を吐いた。
ゲイリー「ああ、そうした方がいい。 クレアブールの王子には俺から連絡を入れておこう。面識があるんだ」
ゲイリーさんの顔色が、少し青いような気がして……
○○「あの、大丈夫……ですか?」
思わず口にしてしまっていた。
ゲイリー「何がだ? 俺は大丈夫だ」
けれど、大丈夫という彼の笑みが儚く見える。
○○「ごめんなさい。上手く言えないんですが……心配で」
ゲイリー「……ありがとう。 おまえは、優しいんだな。 俺は…―」
再度、彼が何か言いかけた時……
部下1「大変です! ゲイリー様!!」
部屋の扉が激しく叩かれた…―。