第5話 眠れない夜

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パティル「……そういう以前の問題かな。僕は一生、誰とも結婚するつもりはないから」

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冷めた口調に、胸がひどく締めつけられる…ー。

(私、どうしたんだろう……)

ぎゅっと苦しくなる気持ちをこらえる私には気づかず、パティルは手帳のページをめくった。

パティル「……シモンもよくわかんない男だよね。 手に入らないことがわかってる相手に、どうしてそこまで執着できたんだか」

○○「……でも……」

自分でもよくわからないまま、考えるより先に言葉が出ていた。

○○「望みや見返りがないからって、簡単に諦められないものじゃないかな……?」

パティル「……。 ……君にも、いるの? そういう奴が」

○○「……!」

パティルのまっすぐな瞳がこちらを見つめている。

○○「私は…ー」

……

○○「……」

パティルの工房を後にし、部屋へ戻った私は……その場でうずくまるように座り込んだ。

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○○「私は……気になってる人がいて」

パティル「……へぇ。そう」

○○「その人は、私のことをなんとも思ってないみたいだけど。 でも、その人が一生懸命仕事をしてる姿が好きだから……少しでも、力になりたくて」

パティル「……」

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(そうか、私……パティルのことが…ー)

自覚したばかりの感情に、戸惑いを隠せないまま……

眠れない夜は、ゆっくりと更けていった……ー。

……

翌日の朝……

私は少しだけ迷いながらも、いつも通りパティルの工房へと向かった。

(パティルは、まだ寝てるかな……)

起こしてしまうのも気まずくて、申し訳程度にノックをして扉を開く。

(あれ?)

パティル「……」

まるで昨日の続きのように、パティルは作業台へと向かっていた。

○○「……おはよう、パティル。今日は早いんだね」

パティル「……?」

思い切って普段通りに声をかけると、パティルが怪訝そうな顔をする。

窓の外へ視線をやり、次に壁の時計を見上げた。

パティル「……ああ、もう朝か。気がつかなかった」

(気がつかなかった、って……)

○○「徹夜したの!?」

パティル「あー…うん。そうみたい」

ふわ、と大きなあくびをしながらパティルが目元をこすった。

パティル「あ、ヤバ……染料がついた」

○○「ちょっと待って、それ以上触ったら駄目だよ……!」

先ほどまでの気まずさも吹き飛んで、慌ててパティルを机の前から引き剥がした。

ソファに座らせて、濡れたタオルを差し出す。

パティル「……ん」

(自分で拭いてね、って意味だったんだけど)

早くしろ、と言わんばかりに顎を上げ、目を閉じるパティルに苦笑した。

○○「……はい。取れた、かな」

パティル「……」

パティルがうっすらと目を開く。

正面から視線が合ってしまい、心臓が大きく跳ねた。

パティル「……眠い」

○○「……うん。寝ていいよ」

(そういえば、毛布があったような)

探しに行こうと腰を浮かせた瞬間だった。

(……え?)

右手が何かに引っかかったように動かなくなる。

見ればソファに横になったパティルが、私の手首を掴んでいた。

パティル「どこに行くつもり……?」

○○「毛布を取ってこようと思って」

パティル「いらない」

パティルがすっと目を細めた。

○○「……っ!?」

急に腕を引かれ、そのままソファの上へと倒れ込む。

(あ……)

自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

気がつけば私は、温かなパティルの腕の中に収まっていた…ー。

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