第3話 彼を楽しませたい

ロトリアに到着した頃には、すでに逢魔が時に差し掛かっていた。

収穫祭に彩られた街は、藍とオレンジ色の幻想的な光に照らし出され、その中を、思い思いに仮装を楽しむ人々が行き交っている。

○○「たくさん人がいますね」

暮れ行く街並みの中を、仮装とはいえ、様々なモンスターが浮かれながら徘徊する。

(今年の収穫祭は、ホラー映画監督のウィル王子が仕切ってるって聞いたけど……)

○○「皆さん楽しげで、何だか別の世界に迷い込んだみたいです」

ハク「そうなのか……?わからない……」

ハクさんは無表情のまま、周りを拒絶するように手にした本を胸に抱く。

ハク「人混みは……苦手だ……」

つぶやくように言ったハクさんに私は…―。

○○「どうしてですか?」

ハク「わからない。心がざわつく……これは…―」

ハクさんはそのまましばらく収穫祭に沸く街を眺めて…―。

ハク「……すまない」

○○「え?あ、待って…―」

呼び止める間もなく、彼は人混みを避けるように消えてしまったのだった。

……

収穫祭に彩られた街に一人残され、やがて夜がやって来た。

(どうしよう……ハクさん、どこに行ってしまったのかな?街はこんなに楽しそうなのに、やっぱりハクさんには……)

??「……ねえねえ、おねーさんっ!」

○○「え?」

その時、背後から服の裾を引っ張られて、振り向くと――

小さなお化け「お菓子をくれないと、いたずらしちゃうぞおおおおおおっ!!!!」

小さなゾンビ「しちゃうぞぉぉぉっ!?」

○○「っ!!」

途端、小さなモンスター達に左右を囲まれた。

○○「えっ、な、何!?」

お化け姿の子ども「あははーっ!ひっかかった、ひっかかったー!」

ゾンビ姿の子ども「えへへっ、ボク達怖いでしょ!!」

本格的な特殊メイクを施した子ども達が、私の反応にけらけらと笑い出す。

お化け姿の子ども「ウィル王子の連れてきた人達が、みんなにメイクをしてくれたんだ!」

○○「そ、そうだったんだ」

(びっくりした……)

子ども達はそのまま笑いながら、お菓子の屋台の方へと駆けていく。

(お菓子をくれないと、いたずらする……か)

その時、私の頭の中にある考えが閃いた。

(これならきっと……ハクさんを探しに行こう)

私は街でローブを被るだけの簡単なお化けの仮装を手に入れると、ハクさんの姿を探して、収穫祭に賑わう街を巡った。

すると、街外れの公園で静かに本を読む彼の姿を発見した。

ハク「……」

人気のない公園の裏口から、彼の方へそっと近づいて…―。

○○「ハクさん!お菓子をくれないと、いたずらしちゃいますよ?」

ハク「……」

振り向いた彼が一瞬、驚いたように目を大きく見開いた。

ハク「……何をしている?」

顔をしかめた彼の問いかけに…―。

○○「こ……このセリフ、知らないですか?」

ハク「知識としては知っている。しかし、わからない……どうして、この街の人々は楽しそうにしている?モンスターの姿形を真似て、何が楽しい……?」

○○「それは……」

無感情な瞳を伏せるハクさんを前に、少し考える。

○○「でも、私は楽しいです。普段と違う格好をして、こうしてハクさんと収穫祭を過ごせて……」

ハク「その格好をしていると、楽しいのか?」

お化けに扮した私を見て、ハクさんが軽く首を傾ぐ。

ハク「普段のお前なら、俺を驚かせるようなことはしないだろう?」

○○「そうですけど……」

ハク「……」

彼の薄い色の瞳が、かすかに揺れたと思ったら……

○○「!」

ハクさんが、被っていた私のフードをそっと脱がせた。

○○「あの……」

ハク「……」

じっと、お互いに見つめ合う。

(何を……思っているんだろう)

聞きたいのに、なぜだか上手く言葉にならない。

このまま、永遠に沈黙が続いてしまうかと思った時…―。

ゾンビ姿の子ども「あ!さっきのおねーちゃん発見!しかも隣に男の人がいる!」

お化け姿の子ども「よし、ついでに驚かしちゃえー!」

(あれは、さっきの子ども達?)

子ども達は、うきうきとした様子でハクさんの近くまで寄ってきた…―。

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