きらめく波の光が差し込む部屋の中…―。
オリオンさんの気遣わしげな瞳が、私を見つめている。
(どうしよう、なんだか胸が)
思わず目を伏せると、オリオンさんがかすかに笑みをこぼした。
オリオン「お前も恥じらいを覚えたか」
〇〇「ち、違いますっ!」
オリオン「じゃあ、なんだ」
(誓いのキスのこと……確かめてみよう)
〇〇「誓いのキスって……。 もしかして、地上でもう、
済ませていたり……?」
オリオン「なんだ、それで顔が赤かったのか。 ついてくるか?と俺は尋ねただろう。お前はついてくると言った。 何があってもついてくる、という婚姻の誓いに決まっているだろう」
(やっぱり……)
〇〇「でも私、結婚を誓ってなんかいません! それに……ご両親に嘘をついてしまって……すごく心苦しいです」
オリオン「大丈夫だ。いずれ誓うことになる……遅いか早いかの違いだけだ」
〇〇「そんなこと……っ」
オリオン「嘘をついたのは俺だ。 お前が気に病むことじゃない。 お前はただ……。 俺のことだけ考えていればいい」
低く響く声でそう囁くと、オリオンさんは私の顎を人差し指で持ち上げる。
オリオン「なんなら……今すぐに俺のことしか、考えられないようにしてやろうか?」
そうして、ゆっくりと唇が近づき……
〇〇「やめて下さい!」
私はその唇を拒み、部屋を走り出てしまった。
…
……
(やっぱりこんなの間違ってるよ)
いろいろなことが頭を巡り、沈み込むような気持ちで波に揺れるシャボンの外の景色を見つめる。
(帰りたい)
(私、どうしたらいいんだろう)
そうしてしゃがみ込むと、貝殻のネックレスがポケットからこぼれ落ちた。
(オリオンさんは、とても真っ直ぐな人だ)
――――――――――
オリオン「好きな相手に好きと言って、
何が悪い」
オリオン「結婚したい女に迫ることの、
どこが悪い」
オリオン「心から好きだと思える相手に
出逢えるのは、奇跡だろう」
――――――――――
(だけど……)
水の中に漂うネックレスをぼんやりと見つめていると…―。
ふと大きな波が押し寄せた。
〇〇「あ……っ」
(シャボン玉の外に出ちゃう!!)
思わず手を伸ばして駆け寄るも、その波は思いのほか大きくて……
〇〇「……っ」
夢中でネックレスを掴んだ時には、私はシャボン玉の外に出てしまっていた。
――――――――――
オリオン「死にたくなければ、シャボンの外には出るなよ」
オリオン「あの外は、力を持っていないと出られない」
――――――――――
(出ちゃだめって、オリオンさんが教えてくれたのに)
波のさざめきが遠ざかる。
(苦し……い……)
遠ざかる意識の中で、オリオンさんの声を聞いた気がした…―。