色とりどりの魚がキラキラと舞うように泳いでいる中…―。
オリオンさんに手を引かれ、私は屋外にしつらえられたテーブルに向かっていく。
オリオン「お待たせしました、母上」
たくさんの使用人の方達に囲まれて座っていた美しい女性が、ふと目をあげる。
王妃「おはよう、オリオン……それに〇〇さん」
目で促され、私とオリオンさんは椅子に腰掛ける。
すぐに貝殻で作られたティーカップが運ばれてきて、爽やかな香りのミントティーが用意された。
王妃「昨晩オリオンから聞きました。二人が結婚を誓い合った仲だと。 夫は喜んでいましたが……私は、オリオンの妻となる女性を簡単に認めるつもりはありません」
――――――――――
オリオン「どのみち、
お前はもうここから帰ることはできない」
――――――――――
(地上へ戻る方法……)
(聞くなら、今しかない)
私が思いきって口を開こうとすると……
オリオン「いいぜ、聞いても」
オリオンさんが私の耳元で囁く。
オリオン「ただしそんなことをしたら……。 お前を一生、俺の部屋の中に閉じ込めてやる」
〇〇「……っ」
その言葉に、背筋がぞくりとする。
いろいろな考えが頭をめぐり、私は口を開けたまま、言葉を紡ぐことができずにいた。
王妃「本日から、試験的にお妃教育を受けていただきます。よろしいですね?」
オリオン「……」
〇〇「は、はい……っ」
オリオンさんの余裕たっぷりの視線を受けて、私は思わず返事をしてしまった。
…
……
午後…―。
オリオン「それでは、次にこの国と地上の国交について」
私はさっそく、お妃教育の一貫で海底国の歴史を学んでいた。
(私、何やってるんだろう)
深いため息を吐くと……
オリオン「おい、聞いてるのか」
オリオンさんが、私の顎を指で持ち上げる。
〇〇「……!き、聞いてます!」
思わずそう答えてしまうと……
オリオン「……」
オリオンさんがにやりと笑って、顎から指を離した。
(もう……)
オリオン「昔、地上人は自由に海底と地上とを行き来することができた。 だが、魚人と差別されたり、ペットとして人身売買されるようになってだな……。 今ではほとんど地上との交流は断絶されて。 特別な力を与えられないと地上人は行き来できないようになった。 唯一地上の人間が海底にくることが許されるのは、婚姻の誓いのキスをした場合のみだ」
〇〇「え……?」
(婚姻の、誓いのキス?)
オリオン「海底に来る力は、それで得ることができる」
そこまで流暢に話すと、オリオンさんは意地悪そうな瞳を私に向けた。
オリオン「ただし、地上に戻る力を得るには……より濃密な海底人との
つながりが求められる」
〇〇「より濃密な……つながりって?」
その言葉に、私の心臓が音を立て始める。
オリオン「子を成すことだ」
オリオンさんはそう言って私の髪を指に絡めとる。
〇〇「……!!」
(じゃあ、私は海底人……オリオンさんとの子どもを産まないと、帰れないの?)
オリオンさんの言葉にショックを受け、私はその場に固まってしまう。
オリオン「これでわかっただろう?お前は俺と結婚しなければ、地上に帰れない」
オリオンさんがにやりと笑みを浮かべる。
(あれ?でも、海底へ来る時の誓いのキスをしてはいないはずだけど)
(も、もしかして)
――――――――――
オリオン「お前、俺についてくるか?」
〇〇「オリオンさ……っ…ん……っ」
――――――――――
(あれが、婚姻のキスだってこと!?)
オリオン「どうした?顔赤いぞ」
思わず立ち上がると、オリオンさんは心配そうに私の額に手を当てる。
顔を覗き込まれて……
私はそのきらめく瞳の中に吸い込まれていくような気がした…―。