翌朝…―。
メイドさんに手伝ってもらって身支度を整えていると、オリオンさんがやってくる。
オリオン「ふーん」
腕組みして私をしばらく見つめると……
オリオン「……短い」
そう言って、スカートのすそを爪先で示す。
オリオン「婚約者以外の男に足を見せるのは、はしたないことだ」
〇〇「わ、私は婚約者なんかじゃないです!」
オリオン「威勢がいいのは嫌いじゃない。 すぐに衣装を届けさせよう。 ああ、それから……髪も上げたほうがいいな」
オリオンさんは、さも当然というような様子で私の髪を持ち上げ、うなじをあらわにした。
〇〇「……っ」
オリオン「そこのメイド。聞いていたな。俺の婚約者として、恥ずかしくない支度を整えてやれ」
〇〇「私、このままの格好でいいです」
そう強く言うと、オリオンさんは私の顎を指で引き上げる。
オリオン「いい度胸だ」
オリオンさんは、おもむろに左手を壁について私を壁との間に追いつめる。
そうして見せつけるように右手を私のスカートに差し込み……
オリオン「俺は抗われると、燃える方だ」
〇〇「やめて下さい……!」
彼の手を制止させようと手を伸ばすけれど、手首が押さえつけられてしまう。
そんな私を見て、彼はクスクスと笑みをこぼした。
オリオン「冗談だ」
〇〇「……っ」
オリオン「15分後、迎えにくる。 支度をしておけ」
(オリオンさん、ひどい……)
(私の気持ちをこんなに無視して、好きなんて信じられない)
オリオンさんが部屋から出て行くと、私は握りしめたままの貝殻ネックレスを見つめた…―。
15分後…―。
メイドさんにされるままに支度を終えた私を、オリオンさんがじっと見つめる。
オリオン「悪くないな。 俺好みだ」
羽根のようにふんわりと身をつつむドレスの裾が、水の中でキラキラとゆらめいている。
〇〇「そんな言葉……嬉しくないです」
(このネックレスをくれた時は、すごく優しい人って思ったのに)
悲しい気持ちがこみ上げて、私は泣きそうになる。
オリオン「ふん……そうだ、お前が俺の妻になったら。 どんな風にも波にもあてないように、宮殿の奥深くにしまい込もう」
〇〇「……っ」
その言葉に、私は…―。
〇〇「私を好きって……本気なんですか?」
挑むように言葉がこぼれ出てしまって、私は思わず口元をおさえる。
オリオン「本気か……だと? まさか、疑っていたのか。 まあ、お前が戸惑うのも無理はない。急だったからな。 もう一度言ってやろう。 お前が、好きだ。 俺はお前を妻にしたい。 ……もう、疑うな」
(怖いくらい真剣な声……本気なんだ)
どうして良いかわからずに、瞳を瞬かせていると……
〇〇「……っ!」
オリオンさんは、私の唇を突然に奪う。
抗おうと手を伸ばしかけると、その手は強い力に抑えつけられてしまった。
オリオン「逆らうことは……許さない」
(ひどい……私の気持ちはどうでもいいの?)
〇〇「こんなの……好きって言わないですよ」
そうつぶやいて、私は急いでその場を走り去る。
手の中の貝殻のネックレスが、とても冷たく感じられた…―。