ダグラス「そうか。なら、寂しさに震えるかわいい姫君を、この俺にどうかエスコートさせてくれないか?」
ダグラスさんはそう深い声で耳元に囁いて、私の体を抱き寄せた。
〇〇「エスコート……ですか?」
ダグラス「ああ、いろいろ行事続きで〇〇も疲れただろう? そんな君に、『おもてなし』ってやつをさせて欲しくて」
〇〇「そんな……悪いです。ダグラスさんだってきっとお疲れのはずなのに」
ダグラスさんは微笑を浮かべ、瞳を少し悪戯っぽく輝かせた。
ダグラス「おや、忘れたかい? 俺はアンキュラの海賊だ。そんな柔な男じゃない。それとも…-」
〇〇「あ……っ」
所々に傷のある逞しい指先が、私の顎を取った。
ダグラス「俺と過ごすのは……嫌かな?」
〇〇「ダグラスさん……」
彼の瞳の中に情熱的な夏の陽射しを見て、少しだけくらくらする。
〇〇「そんなことないです! ご迷惑でなければご一緒させてください」
思わず即答してしまうと、再び彼の唇が弧を描いた。
ダグラス「そうそう、いい女ってのはそうじゃないとね。 俺も〇〇に素直に甘えられた方が嬉しいな。 じゃあ、一緒に行こう」
〇〇「はい……あっ」
その瞬間、ダグラスさんの大きな手のひらが、私の頭を優しく撫でた。
(ドキドキしてしまう……)
浅黒い胸元に抱かれたまま、ほんのりと潮の香りがするようで、胸の高鳴りがひとりで育っていく。
ダグラス「ひとまず、劇場にでも行こうか?」
(劇場?)
不思議に思うまま彼にエスコートされて行き着いた先には…-。
〇〇「すごい……ホテルの中にこんなに立派な劇場が?」
驚きながら辺りを見回している私に向かって、ダグラスさんはくすりと笑う。
ダグラス「ここは道化の国のサーカス団のレジデントショーが見られるんだ」
〇〇「レジデント……?」
ダグラス「ああ。レジデントショーってのは……常設公演のこと。 このホテルは道化の国のサーカス団の公演が常に行われているんだ、このポスターを見てごらん」
彼の指先を視線で追うと、大きなパネルにはめ込まれたポスターが目に入った。
〇〇「素敵……!」
そこに描かれていたのは、散りばめられた光の中に浮かぶ、カラフルな奇術師達……
サーカスは夢の中にでも迷い込んだような幻想的な雰囲気だった。
ダグラス「いいだろう? 道化の国は年中カーニバルが開かれている楽しい国だ。 そんな国のサーカス団が、一流でないわけがないだろう? せっかくだから、二人で楽しもう」
〇〇「はい……!」
(ダグラスさんと、サーカスが見られるなんて)
思いもよらない展開に胸を弾ませていた私の横で、彼がふっと表情を緩めた。
ダグラス「実は、このサーカス団の曲芸師に、昔の仲間がいるんだ。 もうしばらく会っちゃいないが、そいつの活躍を君と一緒に楽しみたい。 レコルドなんて滅多にくる国じゃないからね」
〇〇「はい。どんなショーが見られるのか、楽しみです」
これから始まる特別な時間を想像すると、心臓がドキドキと音を立て始めるのだった…-。