太陽が傾きかけた空は、美しい茜色に染まり始めていた。
ダグラス「次は〇〇が落ち着ける場所にしよう」
〇〇「大丈夫です、そんなに気を使っていただ…-」
ダグラス「いいや、俺が疲れてきたんだ。 君との贅沢な時間を過ごせるなら、もっと羽を伸ばせる場所がいい」
ダグラスさんはそう言って、悪戯っぽく片目をつむる。
(私のこと、気遣ってくれてるんだろうな)
ダグラスさんの優しさが私の胸をいっぱいにして……そっと彼の傍に寄り添った。
二人で歩く夕暮れの街は、たくさんの人々で賑わっていた。
ダグラス「……おっと、俺から離れないで。迷子になっちゃ困るからな」
〇〇「……! はい」
彼の胸元に抱き寄せられ、人通りの多い街並みを歩く。
〇〇「パーティは終わったけど……まだ人が残っているんでしょうか?」
ダグラス「そうだな。でも、宴の余韻があるってのは風情だな。 俺は賑やかなところは好きだけど、〇〇は?」
〇〇「はい、私も楽しくなるから好きです」
ダグラス「〇〇は素直でいい子だね」
ふっと、精悍な顔に穏やかな笑みが浮かぶ。
〇〇「あ、そういえば…-」
緊張が解けた私はダグラスさんの姿に、一つあることを思い出した。
〇〇「今日はボニータはお留守番なんですか?」
ボニータというのは、彼が普段連れ歩いていた小さなペットのサルのことだ。
ダグラス「ああ、さすがにここまで連れてくるわけにはいかないからね。 まあ置いてくって伝えたら彼女もご機嫌斜めだったから、後でお土産を買ってあげないと」
〇〇「なら一緒に選びましょうか?」
ちょうど大通り沿いには素敵な雑貨屋がところ狭しと並んでいる。
ダグラス「本当かい、そいつはありがたい。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおう。 ……っと、その前にまずはあそこのレストランに入ろうか?」
ダグラスさんはすっと優雅な所作で私に向かって手を差し出す。
(海賊って言ってもこういうところはちゃんと王子様なんだ……)
ダグラス「どうしたんだい?」
〇〇「あ、ごめんなさい」
ダグラス「……当ててみせようか? 今、俺のこと、ちゃんと王子なんだなって思ったんだろう?」
心をそのまま読まれたようで、頬が急速に熱を帯びていく。
〇〇「恥ずかしいです……私そんなに顔に出やすいですか?」
ダグラス「ああ、初めて海で出会った頃から変わらない。 その素直さが俺には海上の陽射しのようでまぶしいね」
静かに笑って、そのまま目を伏せたかと思ったら……
〇〇「あ……っ」
私の手の甲に、小さな口づけが落とされた。
力強い視線が私をまっすぐに見つめ、胸がにわかに騒ぎ出す。
ダグラス「そうだな。今日は海賊稼業は休みにして、王子として君を存分にエスコートしよう。 存分に……ね」
含みのある声が、甘く深く私の耳に響いたのだった…-。