第4話 穢れのない国

ネロ「ここはチルコ……忌まわしい大人のいない、穢れのない国だ」

氷のようなネロの笑みが、私の背筋を寒くさせる…-。

○○「ネ、ネロ……?」

ネロ「……城に行くぞ」

私の背を向け、ネロが城へと足早に歩き出す。

(どういうこと……?)

○○「ネロ……!」

ネロ「っ……」

振り解かれてしまうかもしれないと思いながら、それでもネロの手をしっかりと掴んだ。

○○「ネロ。教えて? どうして、そんなに大人を嫌っているのか……」

ネロ「あんたには関係ないだろ」

○○「……」

ネロの顔を、まっすぐに見つめる。

ひとかけらの迷いもない、強く綺麗な瞳が私を映し出していた。

ネロ「……知りたいの?」

笑みを浮かべながら、ネロが私の傍へと歩み寄る。

○○「……っ」

間近に迫ったネロの顔は、暗く歪んでいた。

(どうして……怖い)

そう思うものの、ネロの瞳に捉えられると身動きができなくなる。

ネロ「いいよ……あんたになら教えてあげる。 大人が、どれだけ醜悪な生き物なのか」

ネロが、まるで穢らわしいものを吐き出すかのように話し始めた。

ネロ「昔むかし……チルコの民は、薬を作ることが得意でした」

(薬……?)

眠る前の子どもに囁きかけるように、ネロは言葉を紡いでいく。

ネロ「けれどチルコの人達は恥ずかしがりで、他国とうまくお付き合いができません。 商売が下手なチルコの生活は、貧しいもので……皆は頭を悩ませていました。 けれど、ある大きな国が、チルコの薬を全部買ってくれると言い出しました。 その代わり……自分達にだけ売るように、と」

ネロの声が耳に届く度、ぞくりと体が震えてしまう。

ネロ「チルコは豊かになりました。薬を売ったお金で、皆幸せに暮らせるようになりました。 ところが…-」

○○「……っ!」

ネロの笑顔が、歪んでいく…-。

ネロ「その薬は、実は恐ろしい悪魔の薬だったのです!」

○○「え……!?」

ネロ「大人達は言いました。『皆が幸せになれるように頑張っている』と、子ども達に嘘を吐いていました。 何が幸せなのでしょう。人々を蝕む細菌兵器のような薬のどこが、皆を幸せにするのでしょう!」

怒りのせいなのか、それとも悲しみのせいなのか……ネロの肩は、微かに震えていた。

ネロ「さあ……ここからが、一番の笑いどころだよ。 大国はその薬を使って、戦争を起こしたんだ。もちろん多くの命も失われた」

○○「そんな……」

ネロ「薬の威力が証明され、大国はもっともっと薬を欲しがるようになった。けれど……。 チルコは、利益を得ようとして大国を脅したんだ。 最初こそ、大国はその脅しに屈していた。だけど、チルコの要求は次第にエスカレートしていって……。 ついに堪忍袋の緒が切れた大国によって、チルコの大人達は皆殺しにされてしまったんだ」

○○「みな……ごろし……?」

ネロの操るマリオネットが、がくりと頭を垂らした。

ネロ「ま、大国も結局は、チルコの技術なしでは薬も作れなかった。 中途半端に精製した薬が蔓延して、国がボロボロになったそうだよ……ハハッ」

乾いた笑い声が、静かな空間に響く。

ネロ「それから僕達は、こうしてサーカスの技を磨いて食いぶちを稼ぐようになったってわけ。 ああ……大変だったなあ。怪我をして病気して、それでも練習を重ねて。 子どもだけで…-」

くつくつと、ネロは喉の奥で笑う。

ネロ「……これで、わかっただろう」

○○「ネロ……」

ネロ「大人は……嘘つきで、強欲で、愚かな生き物だ。 許さない……許さない……許してたまるものか!」

ネロの拳が、小刻みに震え続ける。

○○「ネロ……」

思わずそっと手を重ねると、ネロの体がびくりと震えた。

ネロ「……」

それ以上言葉を交わすことないまま、ただ時間だけが流れ続けていた…-。

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