第3話 チルコ・サーカス

ネロ「……来てみるか? 情憬の国・チルコへ…-」

子ども達だけのサーカス団と一緒に、私はチルコを目指す…-。

○○「ネロくん。チルコはどんな国なんですか?」

ネロ「どうというほどのこともない。ただの、のどかな田園王国だ」

そう語るネロくんの表情は、いつもよりほんの少しだけ和らいで見える。

(……チルコのこと、大切に思っているんだ)

微笑ましく思いながら、彼を見上げる。

すると……

ネロ「……あのさ。 その『ネロくん』って言う呼び方はやめろ」

○○「え? じゃあ……。 なんて呼べばいいですか?」

ネロ「ネロでいい。『王子』も、『くん』も、『さん』も、何もいらない」

ネロくんは真面目に言ったつもりのようだったけれど……

なんだかその物言いがかわいらしく感じられる。

○○「はい、わかりました……ネロ」

ネロ「……丁寧な言葉遣いもいらない。 大人みたいな話し方をしないでくれ」

○○「……うん」

不愛想な態度を取られるけれど、ほんの少しだけ……彼との距離が縮まった気がした…-。

……

チルコに戻る途中に立ち寄った国でサーカスを披露することになった。

(お金を稼ぐためって、ネロはそう言ってたけど……なんでだろう)

(ネロは、王子様なんだよね?)

疑問に思いながらも観客席に座り、ショーの無事を祈っていると…-。

ネロ「ご来場の皆々様……本日は、チルコ・サーカスへようこそおいでくださいました。 さあ。今宵は私達と共に、終わらない夢を……」

団長であるネロは、魅惑的な雰囲気をまといながら挨拶をこなし、その晩のサーカスを一気に盛り立てた。

(不思議だな……ああやって舞台に立ってると、さっきまでとは違うネロみたい)

とくとくと鼓動が速まるのは、サーカスへ向けた期待だけではないような気がした。

ただ……

ネロ「……」

(ネロ……?)

寸分の狂いもなく道化として徹する姿は見事だったけれど、その表情にはどこか時折、怒りのような昏さのようなものが感じられた…-。

……

早速、公演を終えたネロの元へ行こうとすると……

男の子「あっ、あのっ」

一人の男の子がちょうどネロに声をかけた。

ネロ「……どうした?」

男の子「僕、さっきのサーカスを見て……見て……」

男の子は、もじもじと汚れた感じのする服の裾をいじっている。

ネロ「……親は? いないのか?」

何かを察した様子で、ネロは男の子に問いかけた。

男の子「うん……もう、いない。死んじゃった。僕、一人……。 僕、一人で毎日泣いてたけど……。 でも、サーカスで頑張る僕くらいの子を見て、その、えっと……っ」

ネロはしばらく男の子を見つめていたけれど、ふっと表情を和らげて……

ネロ「いいよ、おいで」

男の子の頭を、くしゃりと撫でた。

男の子「え……?」

ネロ「サーカス、やりたいんだろう? 親なんていらない。もっと楽しいことが、チルコにはある。 チルコへ来る子どもは皆……俺達の家族だ」

男の子「うっ……僕っ、僕……っ、ひっくっ、うわ~んっ」

男の子はまるでせき止めていたものを吐き出すかのように、ネロの胸で号泣し始める。

男の子が落ち着くまで、ネロはずっと背中をさすってあげていた。

(優しい表情……)

ーーーーーー

??「大人なんか、みんな腐ってる」

ーーーーーー

(あの時のネロとは全然違う)

(どうして……)

その答えがわからないまま、私はチルコへと出発した…-。

チルコへ到着するとすぐに、子ども達がサーカス団をいっせいに出迎えてくれる。

ネロ「皆、ただいま!」

子ども達「ネロ様! おかえりなさ~い!!」

子ども達に囲まれたネロが、ひとりひとりにお土産を手渡している。

大歓迎の子ども達に囲まれるネロを見ながら、私は……

○○「ネロ、人気者だね」

ネロ「そうか? 皆、土産がほしいんだよ」

けれどネロは、まんざらでもない様子だった。

(あれ、でもそう言えば……)

○○「ネロ。この子達のご両親は、どこにいるの?」

その瞬間…-。

ネロ「両親……?」

ネロの表情に、昏い影が落とされる。

ネロ「そんな汚いもの、いるわけない、何言ってるんだ。 ここはチルコ……忌まわしい大人のいない、穢れのない国だ」

凍りついたようなネロの笑顔が、私の背筋を寒くした…-。

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