太陽の光を浴びて、小瓶の中の液体が不思議な色を煌めかせる…-。
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??「……大人なんか、みんな腐ってる」
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草原に吹く柔らかな風を感じながら、私はあの男の子の後を追った…-。
そうして、しばらく…-。
??「……あんた、どうしてここにいるんだ?」
近くの街へとたどり着いた私は、とあるサーカス団の所有するテントの中で男の子に再会できた。
??「まさか、俺をつけてきたのか?」
男の子が、私を訝しげに見つめる。
○○「探していたんです。これを落としたみたいだったので」
??「それは……!」
男の子の前に小瓶を差し出すと、彼は大きく目を見開いた。
??「……。 わざわざ……このために?」
男の子は、恐る恐る私の手から小瓶を受け取る。
○○「はい。渡せてよかったです。 サーカス、って言ってましたよね。合流できたみたいで本当によかったです」
(王子様が自らサーカスをやっているとは思わなかったけど……)
そんなことを思いながら、私は男の子に微笑む。
すると彼は、戸惑うように視線を泳がせ……
??「ネロ……」
○○「え……?」
ネロ「俺はネロだ」
つぶやきに首を傾げると、男の子は怒ったような顔をするけれど……
○○「私は〇〇です」
さっき見た憎悪のような色は、今はその瞳には映っていない。
代わりに注がれるのは、私のことを慎重にうかがうような彼の視線だった。
ネロ「〇〇……」
小さく私の名前を呼んだ後、ネロくんが再び私を訝しげに見つめる。
ネロ「……俺を目覚めさせてくれたことと、これを届けてくれたことについては礼を言う。けど……。 普通……こんなの、放っておくだろ。 ……あんたは変な奴だ」
○○「大切なものかもしれないって思って……」
ネロ「……本当に、そう思って……?」
ネロくんは、さらに怪訝そうな顔をしながら私を見た。
けれど……
ネロ「ん? おい、その傷……」
○○「え……?」
ネロくんが指差した方の頬に触れると、小さな痛みが走った。
(もしかして、さっき林の中を通った時についたのかな)
○○「大丈夫です、これくらい。じゃあ、私はこれで…-」
ネロ「待て」
立ち去ろうとした私の背中に、ネロくんの声が届く。
ネロ「……来い。医者のところに連れていってやる」
○○「あっ、ネロく…-」
私の言葉を最後まで待つことなく、ネロくんはテントの外へと出て行ってしまった。
…
……
医者「はい、これで問題ないでしょう。 できる限り、傷が残らないように手当てしておきましたよ」
○○「ありがとうございます」
お礼を言うと、お医者様が優しく微笑む。
その笑みには、まだどこかあどけなさが残っていた。
(ネロくんと同じくらいの年かな)
ネロ「悪かったな、忙しいのに」
医者「ネロの頼みなら、いいさ」
彼の元には先ほどから子ども達が大勢詰めかけていた。
(さっきから、子ども達の姿しか見ないけど……)
○○「ネロくん。あの子達は……?」
ネロ「このサーカス団の奴らだ」
ネロくんは、ぶっきらぼうに返事をした。
(サーカス……)
(やっぱり、練習中の怪我とかも多いのかな)
てきぱきと診察を進めるお医者様の背中を見つめる。
すると……
ネロ「おい、もう行くぞ」
○○「あっ、はい!」
ネロくんに声をかけられ、私は慌てて立ち上がる。
○○「ネロくん、ありがとうございました」
ネロ「……別に。礼なんていい」
私に振り返ることなく、ネロくんはつぶやくようにそう答える。
○○「でも、子ども達だけのサーカスなんて驚きました。 大人の人は…-」
ネロ「いない」
○○「え?」
ゆっくりと、ネロくんの顔がこちらを向いて……
ネロ「……来てみるか?」
強い風が、私たちの間を吹き抜ける。
ネロ「情憬の国・チルコへ…-」
ネロくんの声は、どこか不気味な響きをはらんでいた…-。