第4話 好きな人

石畳の道に私と那由多さんの影が伸びている…-。

那由多「……○○?」

顔を覗き込まれ、私は慌てて言葉を探した。

○○「あ……どうして、恋の病に効くんですか?」

すると、那由多さんはふっと表情を引きしめて……

那由多「……知りたい?」

(え……?)

私の答えは聞かないままに、彼はふらりと歩き出す。

(那由多さん?)

慌てて那由多さんを追いかける私に、彼は背を向けたまま……

那由多「そのことは、食事でもしながらゆっくりとね」

そう言いながら、湯屋の方へと歩いていく。

(……笑ったかと思えば、真顔になる)

(近くにいたかと思えば、ふらりと行ってしまう)

気ままな那由多さんに、私の心はすっかり奪われていた…-。

……

私達は、茜色に染まる景色を見ながら歩いていた。

那由多「さっきの話なんだけど……」

(恋の病に効く湯、のことだよね?)

その話題になった瞬間、那由多さんの顔が真剣さを帯びる。

(何かあるのかな……)

那由多「あの温泉は、温度も成分も肌にちょうどいいから、元は美肌の湯って言われていて……。 綺麗になると自信がついて恋が上手くいくから、恋の病に効く温泉だって、俺はそう言ってるんだ」

○○「あ……そうだったんですね」

(直接、誰かの恋を叶える縁結びじゃないけれど)

(綺麗になると自信がついて、恋が上手くいく……)

○○「なるほど……」

腑に落ちて、思わず言葉を漏らしてしまうと……

那由多「あれ」

那由多さんが驚いたような顔をする。

那由多「がっかりしなかった?」

○○「? はい…-」

那由多「へえ」

顎に手をあて、興味深げに私を見つめて……

那由多「これも新鮮な反応。だいたい皆、がっかりするのに」

○○「どういうことですか……?」

那由多「この温泉に入れば、恋が叶うって思う人が大半」

(確かに、私も最初はそうなのかなって思ったけど)

○○「……恋の病は、きっと自分でしかなんとかできないものだと思うから。 その後押しをしてくれるあの温泉の効能は、素敵だと思います」

那由多「……」

私の言葉を聞いた那由多さんの目が、優しく細められる。

○○「あの…-」

那由多「○○は、好きな人がいるのかな?」

不意の質問に、胸の鼓動が速くなる。

(……好きな人)

目の前にいる那由多さんを、私は見つめる。

夕陽に照らされた彼の顔が、息を呑むほど美しいと思った。

○○「……いません」

やっとの思いで、私はそう答える。

那由多「なーんだ。いるんだと思った。 じゃあ、俺はどう?」

○○「え……」

ドクンと、心臓が大きく跳ねる。

○○「それは……また、冗談ですか?」

思い切って聞いてみると、那由多さんはふっと真顔になって……

那由多「どっちだと思う?」

私を見つめ、思わせぶりに微笑んだ。

彼が冗談なのか本気なのか全くわからなくて、言葉が出てこない。

那由多「出会ったばかりとか、関係なくない? こういうのはさ」

那由多さんが、すっと私との距離を詰める。

那由多「……」

吐息がかかるくらいに、那由多さんの顔が近づいて……

○○「……っ」

ぎゅっと目をつむった瞬間、那由多さんの気配が離れていった。

那由多「ほら、ご飯食べに行こう」

次の瞬間には、那由多さんは私の半歩先を歩いていた。

(また……冗談だったんだ)

(私、ずっと那由多さんに振り回されてばっかり……)

けれどどうしても、彼のことを嫌いになれない。

胸の中に芽生えた想いは大きくなるばかりだった…-。

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