ダグラス「それぞれの神に伝承があるんだけど……。 海と大地を守る神がいつも傍に置いていたのが、金のたてがみの馬と白いイルカだって言われてるんだ」
私は、泉のほとりにたたずむ馬を見つめる。
淡い光をまとうその馬のたてがみは息を呑むほど美しい金色で…―。
(もしかして……)
馬は何か言いたげに私達を見つめた後、おもむろに泉へ入っていく。
次の瞬間……
○○「え!?」
ダグラス「消えた……?いや、もぐったのか?」
湖面には緩やかな波紋が広がるだけで、その中に馬の姿はない。
何が起きたのかわからず、驚きに目を見開いていると……
ボニータ「キキッ」
楽しげに鳴いたボニータが、泉へと駆けていく。
そして……
○○「ボニータ!?」
小さな水音と共に、ボニータが泉の中へ消える。
思わず追いかけようとする私の腕をダグラスさんが掴んだ。
ダグラス「○○、待って。危ないから俺が行こう」
泉の水に触れたダグラスさんが、訝しげに眉を寄せる。
ダグラス「これは普通の泉じゃない……海水か?」
○○「海水?」
言われて泉に近寄れば、湖の匂いがする。
(さっきの砂浜からは随分離れているのに……)
ダグラス「ちょっと待ってて」
そう言ってダグラスさんは泉にもぐる。
ボニータは大丈夫だろうかと不安な思いで見つめていると、
ダグラスさんがすぐに水面から顔を出し、続くようにボニータも姿を見せた。
(よかった……)
ダグラスさんの傍ですいすいと泳ぐボニータを見て、思わず安堵のため息をこぼすと……
ダグラス「この泉、やっぱり海水だ。相当深そうだし、もしかすると海と繋がってるのかもしれない」
○○「そうなんですか?」
ダグラス「ああ。でも、それより不思議なのが……。 水の中なのに普通に呼吸ができる」
○○「えっ?」
泉の中で驚いたように目を瞬かせている彼に、私は……
○○「本当に不思議ですね」
(神秘的な伝承のあるこの島らしいといえば、らしいけど……)
ダグラス「そうだな。俺も驚いてるよ」
どこかと繋がっている、しかも呼吸ができるとなれば、馬が姿を消したのも納得ができる。
不可思議なこの状況を頭の中で整理していると、ダグラスさんが手招きをした。
ダグラス「○○もおいで。 さっきの馬のことも気になるし、それに……」
ダグラスさんが好奇心に満ちた笑みを浮かべる。
ダグラス「こんなに冒険らしい冒険、海賊の俺でも初めてだ。 特別なデートができそうだし、君と一緒に行きたい」
(ダグラスさん……)
楽しげな彼を見ているうちに自然と心が浮き立って、私も笑顔で頷いた。
泉のすぐ傍までやってくると、迎えに来てくれていたダグラスさんが私の手を握る。
ダグラス「さあ、もぐってみよう」
私は彼に手を引かれるまま、泉に飛び込んだ…―。
(わぁ……)
陽の光が差し込む水中を、ボニータが快適そうに泳ぎ回っている。
ダグラス「○○、大丈夫かい?」
○○「はい、大丈夫……え?」
(水の中でしゃべれてる?)
驚いてダグラスさんの顔を見つめると、彼は得意げに目を細める。
ダグラス「ほら、言っただろう?特別なデートができそうだって」
そう言って指を絡めてくる彼に、私は騒ぐ鼓動を落ち着かせながら頷いたのだった…―。