翌朝…-。
まぶしいほどの日差しが、カーテンの向こうでキラキラと輝いている。
(ゼロさんが怪我をしなくてよかった……)
私の肩の傷はたいしたことはなかったけれど、ゼロさんが急いで呼んだ宮廷医さんに、ぐるぐると包帯が巻かれていた。
身支度を終えた頃、執事さんが部屋にやってきた。
執事「ゼロ様が、キッチンにお越しいただくようにと」
〇〇「キッチン……?」
執事さんに連れられやってくると、キッチンではゼロさんが料理をしていた。
〇〇「ゼロさん……?」
彼の意外な姿に、私は驚いてしまう。
ゼロ「おはよう、傷の具合は?」
〇〇「はい、おかげさまで……えっと」
ゼロ「昨日の礼がしたい。助けてもらったから。 ここは俺専用のキッチンだ」
〇〇「ゼロさん、お料理できるんですか?」
驚いて、つい大きな声が出てしまう。
ゼロ「料理は科学だからね。すべて緻密な計算でできているから、落ち着く。 贈り物やプリンセス扱いは嫌だと言われたから、料理はどうかと思って。 口に合わないかもしれないが、俺からの礼だ」
(嬉しい……)
ゼロ「……これなら、どうだ?」
彼は、私の顔を覗き込む。
〇〇「すごく嬉しいです……!」
ゼロ「そうか。すぐできる」
嬉しそうに頬を綻ばせ、ゼロさんがお鍋のふたを取った。
美味しそうな匂いが漂い、私のお腹が音を立てる。
〇〇「あ……」
(恥ずかしいっ……)
そんな私を見て、ゼロさんがクスリと笑った。
ゼロ「味見するか?」
そう言うと、スープをひと匙すくってくれる。
ゼロ「オニオングラタンスープだ。上に乗ってるパンが熱いから、気をつけろ」
ふうふうと息を吹きかけると、私の口元にスプーンを運んでくれた。
(恥ずかしい……けど)
彼の気持ちが嬉しくて、思いきって口をあける。
〇〇「美味しい……!」
玉ねぎの甘いスープを吸ったふわふわのパンと、とろとろのチーズが口の中でとろけた。
ゼロ「よかった」
ゼロさんは優しく微笑んで、私の口の横についたパンを取ってくれる。
〇〇「……っ!」
優しい眼差しに、胸がドキドキと音を立てた。
ゼロ「君が喜ぶと、俺もなぜだか嬉しい。 嬉しいが、同時に落ち着かない」
困ったような顔をした彼を見ていると、愛おしく幸せな気持ちがこみ上げる。
〇〇「私も、とっても嬉しいです。ゼロさんにお料理を作っていただけるなんて」
心の底から温かさがこみ上げて、私はにっこりと彼に笑いかけた。
ゼロ「変な子だ。ドレスや宝石やエステより、こんなことが嬉しいなんて」
〇〇「え……」
ゼロ「そんな顔が見られるなら、いつでも作ってやる。 ……予測不能なお姫様」
彼の唇が、私の額に落ちる…-。
〇〇「……っ!」
お鍋がコトコトと音を立てる。
その音も遠ざかるほどに、心臓が大きな音を立てていた…-。
おわり。