月7話 一夜が明けて……

部屋を出た私は、急いで宿の従業員さんの元へ走った。

従業員さんはすぐに那由多さんに連絡を取り、おかげですぐにお医者様が来てくれることになった。

(よかった……これでもう大丈夫)

フロスト「……」

フロストさんの顔色は相変わらず青白いけれど、横になったことで少しは落ち着いたようだった。

診察を終えたお医者様はフロストさんと二言三言交わすと、私の方へ向き直って…-。

医者「那由多様からご伝言がございました。 フロスト様と〇〇様に勧めたい『飲む温泉』があると」

フロスト「飲む温泉だと……?」

〇〇「それは……」

不思議な響きをはらむその温泉に、思わず首を傾げてしまう。

医者「はい。今日はゆっくり休んで、明日ぜひ試してみてください」

お医者様は多くは語らず、処方薬を置いて部屋を出て行った。

〇〇「……気になりますけど、今日は早めに休みましょうか」

フロスト「ああ……」

力ない、かすれた声が返ってくる。

ぐったりとした様子のフロストさんの様子に、私はいたたまれなくなって……

気づけば、彼の額に手をあてていた。

(熱い……)

〇〇「熱が出ていたんですね……」

そうつぶやくと、フロストさんがゆっくりと目を閉じた。

〇〇「フロストさん……? 大丈夫ですか?」

フロスト「……お前の手が気持ちいい」

そう言って、フロストさんが私の手首を掴む。

そのまま、甘えるように私の手を自分の頬に寄せた。

フロスト「いつもは温かくて柔らかい手だと思っていたが……今は冷たくてちょうどいい。 お前の手はいつでも俺を心地よくさせてくれる……」

その言葉に、じわりと胸が温かくなる。

フロスト「お前とゆっくり過ごしたいと思っていたのに……情けないことだ」

銀色の眉が悔しそうに歪められ、私は慌てて首を横に振った。

〇〇「明日、元気になったら……思う存分、ゆっくり過ごしましょう?」

そう言うと、フロストさんは優しく微笑んでくれた。

フロスト「ああ、そうしよう。お前も今晩はゆっくり休んでくれ。 今日はすまなかった……ありがとう」

それはおおよそ、フロストらしくない言葉なのに……

(どうしてこんなに……嬉しいんだろう)

窓の外では、虫の音が涼やかに響いている。

私の胸はトクトクと、小さく温かな鼓動を刻んでいたのだった…-。

……

明るく柔らかな光が、宿全体に広がっている。

(フロストさん、具合は大丈夫かな?)

声をかけ襖を開けると、フロストさんは立ったまま、窓から景色を眺めていた。

〇〇「フロストさん、体調はいかがですか?」

フロスト「〇〇か。昨日は世話をかけたな。 今はこの通り、すっかり楽になった。薬が効いたらしい」

声もしっかりとした調子が戻り、太陽の光に照らされた彼の肌は、白いながらも健康的に輝いている。

フロスト「お前はゆっくり休めたか?」

〇〇「はい。フロストさんが元気になって本当によかったです」

フロスト「ああ。もう心配はいらない」

(本当によかった……)

いつもと変わらないその様子に、私は心から安堵したのだった…-。

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