夜空に浮かぶ星々の光を受けたティアラは、トルマリの頭上で美しく輝いている…-。
トルマリ「ティアラ、借りちゃっていいの?」
〇〇「もちろん。トルマリ、すごく似合ってるよ」
トルマリ「本当?」
〇〇「うん。……そうだ、鏡の前に行こう?」
私はトルマリの手を引いて、パーティホールへと向かう。
…
……
ホールの奥にある鏡の前へとたどり着いた後……
〇〇「ね、かわいいでしょ?」
トルマリ「……うん!」
鏡に映るトルマリの笑顔は、ティアラに負けないぐらい美しく輝いていた。
トルマリ「やっぱりこのティアラかわいい~。リボンもいいけどお花でアレンジしたらもっとかわいくなるかも!」
トルマリは頬を紅潮させながら鏡に映るティアラを見つめている。
(喜んでくれてよかった)
無邪気なトルマリが微笑ましく、思わず笑みがこぼれたその瞬間…-。
楽師「……皆様、次は本日最後の曲となります。 楽師一同、心を込めて演奏いたしますので、どうぞ最後まで存分にお楽しみください」
トルマリ「そっか、もう終わっちゃうんだ」
〇〇「そうだね……」
楽しいパーティが、もう少しで終わりを迎える。
そう思うと、どこか寂しい気持ちが胸を過ぎった。
トルマリ「ねえ〇〇、最後はぼくと一緒に踊らない?」
〇〇「うん。でも私、あんまりダンスは上手じゃないんだ……」
トルマリ「大丈夫、ぼくがリードしてあげる!」
私はトルマリに手を引かれながらホールの中央まで歩みを進めた後、ヴァイオリンの音色が心地良く響く中で、彼にリードしてもらいながらダンスをする。
けれども……
〇〇「ご、ごめんね。私、本当に下手で……」
トルマリ「ううん、大丈夫だよ。もっとぼくに委ねて」
流れるように踊る周りの人々を見ながら申し訳ない気持ちでいっぱいになったものの、トルマリはそんな私を責めるでもなく、本当に楽しそうな笑顔を浮かべ……
トルマリ「……あ、今のすごくいい感じ! そうそう、そのまま力を抜いて……」
〇〇「えっと……こう?」
トルマリ「うん! 〇〇、すっごく上手になってきてるよ」
まだまだ周りの人々に比べるとぎこちない動きだったものの、いつしか私達は笑顔でダンスを楽しんでいた。
けれど…-。
トルマリ「……」
時間が進むに連れ、トルマリの口数は減っていき……
ダンスが終わるころには、どこか思いつめたような表情を浮かべていた。
〇〇「トルマリ、どうしたの?」
パーティホールの端へと移動した後、なおも無言のまま浮かない顔をするトルマリに思い切って尋ねる。
トルマリ「……〇〇。ぼく、やっぱり……」
トルマリは言いかけた言葉を飲み込むと、ティアラを私の頭にそっと乗せた。
〇〇「え……? トルマリ……?」
(本当にどうしたんだろう。あんなに気に入ってたのに……)
私が驚きながら見つめると、トルマリは思い切ったように口を開く。
トルマリ「ぼく……ダンスをしている間、ずっと考えていたんだ。 やっぱりそのティアラは〇〇の方が似合ってるって」
〇〇「え……?」
(あ……。トルマリ、もしかして……)
〇〇「あの……トルマリ、もしかして私に気を使ってる? だったら…-」
トルマリ「ううん、まさか! だって、本当にそう思うんだ……」
(トルマリ……)
〇〇「……ふふっ」
トルマリ「え? 〇〇……?」
トルマリは微笑む私を見て、不思議そうな表情を浮かべる。
〇〇「ごめんね。私達、同じことを思ってたんだなぁって思ったらおかしくて。 だから……ティアラはこれからも貸しっこしようよ」
トルマリ「同じこと? それに、貸しっこって……?」
〇〇「うん。あのね、実は私もこのティアラはトルマリの方が似合うのにってずっと思ってたの。 だからこのティアラは私達二人のものにして、お互い自由に使えるようにするのはどうかな?」
私の提案に、トルマリの表情が少しずつ晴れていった。
そして……
トルマリ「ありがとう、〇〇!」
パーティホールに、トルマリの喜びの叫びが響き渡る。
こうして私達は、このパーティでかけがえのない共通の宝物を得たのだった。
…
……
パーティが終わった後、私達は仲良く手を繋いで町外れに待たせている馬車へと向かう。
トルマリ「ティアラ、早くアルマリに見せてあげたいな~」
〇〇「そうだね、きっとびっくりするよ」
トルマリ「ふふ、楽しみだなぁ。それに、パーティもすっごく楽しかったし……。 今日は何だか忘れられない一日になったかも。 ……〇〇。 また一緒に、パーティ、行こうね」
〇〇「トルマリ……うん、そうだね」
私は繋いだ方とは反対側の手でそっとティアラに触れ、満天の星の下を歩きながら次のパーティへと思いを馳せる。
そして……
(その時もまた、二人の宝物が増えたらいいな……)
私はトルマリの横を歩きながら、夜空に煌めく星へと願いを託したのだった…-。
おわり。