ティアラの贈呈式のため、ステージに上がった私は……
主催者の手によって頭にティアラを乗せられた後、たくさんの拍手に包まれステージを後にした…-。
(えっと、トルマリは……)
辺りを見回すと、トルマリはホールの隅の壁際で静かにたたずんでいる。
―――――
トルマリ『ほしいな~ティアラ。アレンジしてリボンと一緒につけると絶対にかわいいと思うんだ』
―――――
(……っ)
トルマリがパーティを楽しみにしていたことを思い出した瞬間、胸がひどく締めつけられた。
〇〇「トルマリ……」
私がためらいながら声をかけると、トルマリは笑顔で顔を上げる。
トルマリ「〇〇、お帰り! わ……そのティアラ、近くで見てもやっぱりかわいい~! それに、すごくよく似合ってるよ」
そう言いながらも、やはり表情にはどこか影が差している。
(トルマリを励まさないと……)
(……でも、どうやって?)
いろいろと考えてみるものの、なかなかいい案が浮かんでこない。
すると……
トルマリ「〇〇、どうしたの? 眉間に皺が寄っちゃってるよ」
トルマリは心配そうに私の顔を覗き込んできた。
〇〇「あ、えっと……」
返答に困った私が視線を彷徨わせると、窓の外には無数の星々が輝いている。
(……そうだ)
〇〇「トルマリ、バルコニーに行かない? 星が綺麗だよ」
トルマリ「え? う、うん。いいけど……」
私は少し戸惑いながら返事をするトルマリの手を引いて、バルコニーへと向かった…-。
…
……
空を見上げると、手を伸ばせば届きそうなほど近くに星が輝いている。
トルマリ「わ~、綺麗だね!」
嬉しそうに声を上げるトルマリを見て、私は少しだけ胸を撫で下ろした。
けれども……
〇〇「トルマリ。あの……ごめんね」
トルマリ「え?」
〇〇「私ね、その……」
胸に溢れる思いとは裏腹に言葉が上手くまとまらず、再び視線を彷徨わせてしまう。
すると、次の瞬間……
トルマリ「ふふっ。 ……〇〇、ぼくに遠慮しなくていいんだよ」
〇〇「えっ……」
彷徨わせていた視線をトルマリに向けると、彼は優しげな笑みを浮かべていた。
トルマリ「ティアラはすごーく欲しかったけど、〇〇が選ばれたのは本当に嬉しいし」
〇〇「トルマリ……」
トルマリ「でも、やっぱりかわいいなぁ~」
トルマリはうっとりしながら私の頭上にあるティアラを見つめている。
〇〇「……」
(トルマリは遠慮しないでって言ってくれたけど……)
(やっぱり、私は……)
(……そうだ!)
私は頭上に手を伸ばし、ティアラをそっと外す。
そして……
トルマリ「え……?」
トルマリの頭にティアラを乗せると、星々の光を反射したティアラは、これまで見た中で一番美しく輝いていた。
〇〇「トルマリ、すごく綺麗……」
私が思わず感嘆の声を上げると、トルマリは戸惑いつつも頭上のティアラに手を伸ばす。
そうして、少しの間の後…―。
トルマリ「〇〇……ありがとう」
トルマリは満面の笑みを浮かべる。
それは、私が一番好きな彼の笑顔だった…-。