パーティホールのステージに、まばゆいライトの光が注がれる。
頬を赤らめてうつむく〇〇の頭上で、ティアラが煌びやかに輝いていた。
トルマリ「よく似合ってるよ、〇〇! おめでとう~!」
パーティホールの隅から、ぼくはステージ上の彼女に歓声を送った。
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主催者『僭越ながらパーティの間、ホールの間を別室にて拝見させていただきました。 そして、熟考の結果……。 ティアラは〇〇様にお贈りしたいと思います』
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トルマリ「おめでとう……本当に」
〇〇はどこか申し訳なさそうな表情で、視線を泳がせている。
(ああいう謙虚な姿が、主催者からも評価されたんだろうな)
(謙虚さって、ぼくには全然ないからなぁ)
拍手をしながら、思わず苦笑する。
けれど……
トルマリ「やっぱり、ぼくも……」
力強く拍手をしていたはずなのに、徐々に手から力が抜けていく。
視線は、彼女の頭上に輝くティアラに吸い寄せられていた。
(ぼくも欲しかったな、ティアラ……)
割れんばかりの拍手に包まれた〇〇の姿を、ぼくはただ、ぼんやりと見つめていた…-。
…
……
〇〇に誘われ、ぼく達はバルコニーに出た。
夜空一面に、星々が煌めいている。
トルマリ「わ~、綺麗だね!」
〇〇「トルマリ。あの……ごめんね」
トルマリ「え?」
突然のことに、思わず目を丸くする。
〇〇「私ね、その……」
〇〇は思い迷うように言葉を探している。
(もしかして……ティアラのこと?)
トルマリ「ふふっ。 ……〇〇、ぼくに遠慮しなくていいんだよ」
〇〇「えっ……」
トルマリ「ティアラはすごーく欲しかったけど、〇〇が選ばれたのは本当に嬉しいし」
〇〇「トルマリ……」
そっと、繊細な輝きを放つティアラに視線を向ける。
トルマリ「でも、やっぱりかわいいなぁ~」
隠しきれない本音が、ため息と共にこぼれ落ちた。
間近で見るティアラは想像以上に綺麗で、つい見とれてしまう。
その時……
トルマリ「え……?」
彼女がティアラを外し、ぼくの頭に乗せた。
(どうして……?)
〇〇「トルマリ、すごく綺麗……」
恐る恐る、ティアラに手を伸ばしてみる。
(あのティアラが、ぼくの頭の上に……)
そう実感した瞬間、胸の奥が熱くなってきた。
トルマリ「〇〇……ありがとう。ティアラ、借りちゃっていいの?」
〇〇「もちろん。トルマリ、すごく似合ってるよ」
トルマリ「本当?」
〇〇「うん……そうだ、鏡の前に行こう?」
〇〇が、満面の笑みを浮かべる。
それは、ぼくの大好きな笑顔で…-。
(ティアラを贈呈された時とは、全然違う……)
(そんなに、ぼくに気を使って……?)
(……ティアラを身につけられて嬉しいはずなのに)
胸のつかえは鏡の中に映る自分を見ても、アレンジの仕方をあれこれ考えても、どうしてもぬぐいきれなかった…-。
…
……
ゆったりとした音楽が、広々とした会場に響き渡っている。
(いいのかな、ぼくがティアラをつけていても……)
ぼくと〇〇は手を取り合い、ダンスをしていた。
〇〇に贈呈されたティアラは、ぼくの頭上で輝いていて……
(皆、ぼく達を見てる)
(それなのに……)
周囲の招待客からの視線を感じながら、ぼくは〇〇と踊り続ける。
すると……
〇〇「ご、ごめんね。私、本当に下手で……」
トルマリ「ううん、大丈夫だよ。もっとぼくに委ねて」
(いけない。不安にさせちゃった)
トルマリ「……あ、今のすごくいい感じ! そうそう、そのまま力を抜いて……」
〇〇「えっと……こう?」
トルマリ「うん! 〇〇、すっごく上手になってきてるよ」
ぼくの言葉に、〇〇は頬を紅潮させて笑った。
ティアラに負けないぐらい輝く彼女の笑顔は、とても綺麗で……
(ティアラを贈った主催者、だいぶ見る目があるね)
(……やっぱり、返そう。このティアラは〇〇の方がよく似合う)
(それに、きみがティアラをつけている姿をずっと見ていたいし……)
〇〇の紅潮する頬を見つめながら、決意する。
ほのかに芽生えた感情に戸惑いながらも、ぼくは彼女の手をぎゅっと握りしめた…-。