月SS 職場環境は整然と

ウィリアムさんが、夢世界に迷い込んでからしばらく…-。

必死に調査を続けるものの、私達はまだ有力な手がかりを見つけられないでいた。

ウィリアム「調査方法を見直した方がいいかもしれませんね」

相変わらず生真面目な顔で、ウィリアムさんがくいと眼鏡のフレームを押し上げる。

〇〇「そうですね……」

ウィリアム「まったく。このまま業務に支障をきたし、始末書を提出することになるなど……たまったものではない」

(始末書って……)

以前から気にはなっていたものの、彼の所属する組織について、まだ詳しく聞けていなかった。

〇〇「ウィリアムさんが務めている死神派遣協会って、どんなところなんですか?」

尋ねてみると、すぐに厳しい視線が返ってくる。

ウィリアム「そのことが、調査と関係ありますか?」

冷やかにそう言われ、わずかにたじろぐけれど…-。

〇〇「それはわかりません。ですが、関係ないとも言い切れないと思います」

出会った時よりも距離が近づいていると信じて、私は思い切ってそう言った。

ウィリアム「……」

すると、彼も関係ないとは明言できないようで……少し憂鬱そうに目を伏せた。

ウィリアム「死神派遣協会とは、全世界へ死神を派遣する組織です。 人間社会における公務員のようなものと思ってください」

(公務員……)

ウィリアム「私が所属しているのは、管理課です」

〇〇「管理……ですか?」

ウィリアム「はい。もっとも、どこかのクズ派遣員の不始末で現場に駆り出されることもしばしばですが」

ウィリアムさんは、呆れと怒りが織り混ざったようなため息を吐いた。

ウィリアム「他には人事課、庶務課、回収課があり、そして、都度入ってくる新人には研修を行っています」

(なんだか……聞けば聞くほど、普通の会社みたいに思えてくる)

〇〇「じゃあ、ウィリアムさんも研修を受けたってことですよね」

貫禄あるウィリアムさんにも、新人の頃があった…-。

(どんなふうだったんだろう……)

湧いた疑問を見透かすように、ウィリアムさんは鋭い眼光で私を制した。

ウィリアム「思い出したくもありません」

そしてすぐに、他の課についての説明を始める。

(ウィリアムさんも、新人の頃は苦労してたのかな?)

(そう考えると、なんだか親近感を覚えるような……)

思わず笑みをこぼした私を、ウィリアムさんの黄緑色の瞳がじろりと睨む。

〇〇「……! そ、そういえば……ウィリアムさんの眼鏡、少し変わった形をしてますよね」

とっさに口からこぼれた言葉に、ウィリアムさんの表情がわずかに強張った気がした。

そっと眼鏡に触れ、神妙な面持ちで一点を見つめている。

(……ウィリアムさん?)

ウィリアム「眼鏡をかけているのは、私だけではありません。 我々死神は皆、近眼ですから」

その表情は、遠い過去を懐かしそうに思い返しているようであり、否定するように歪んでいるようにも見えて、私は不思議と目を逸らせずにいた。

ウィリアム「……それで。この情報は何か役に立ちそうですか?」

〇〇「あ……」

再び鋭い眼差しを向けられ、私は反射的に言葉を紡ぐ。

〇〇「ウィリアムさんの周りのことを知って……もっと調査を頑張ろうって、思いました」

それは、心からの答えだったけれど‥-。

ウィリアム「……」

私の答えを肯定も否定もせず、彼はまた眼鏡を押し上げた。

(……この眼鏡が、どれくらいの人の命を映してきたんだろう)

けれどそれは、やっぱり私には想像も及ばないことで…-。

ウィリアム「それでは、調査を再開しますよ」

〇〇「……はい!」

ただ彼が早く元の世界に戻れるように、自分にできることを全うしようと思ったのだった…-。

おわり。

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