月SS 契約の鐘

雲に覆われた月が、ぼんやりと怪しげな光を放っている…-。

ディオン「……」

〇〇と部屋の模様替えをした翌日、帰り支度を終えた俺は、風に揺れる若草色のカーテンを見つめた。

―――――

ディオン『よく考えろ。俺のことは忘れて、然るべき男と添い遂げ幸せになるか。 それともイヴィアに来て、俺と一緒にろくでなしと呼ばれるか。 ……簡単すぎる選択だ』

―――――

ディオン「〇〇……」

彼女の悲しげな顔を思い出すと、胸がずきりと痛んだ。

ディオン「……自分で言っておきながら、勝手なことだ」

(傷つくぐらいなら言わなければいいものを)

(いや。それ以前に……)

(……遊びで済む内に手を引けばよかったんだ)

俺は〇〇への想いを断ち切るように、窓を閉めた。

けれど…-。

ディオン「……ん?」

部屋に、控えめなノックの音が響く。

(まさか……)

微かな予感を胸に扉を開くと、そこには予想通り〇〇がいた。

(どうしてここにお前がいる)

ディオン「どういうつもりだ。 もうすぐ晩餐会が始まる時間だろ。こんなところで油を売ってないで早く行け」

〇〇は由緒あるトロイメアの姫として、晩餐会に招かれている。

片や俺は、地の国を良く思っていないであろうお偉いさんの『手違い』によって招待を受けていなかった。

〇〇「晩餐会は……昨日のうちに、お断りしました。 私も一緒にイヴィアへ連れて行ってください」

ディオン「……何を言っている? 昨日も言ったはずだ。あまり俺に構うなと」

(いくらトロイメアの姫とはいえ、立場が悪くなる可能性は充分にあるんだ)

少しの苛立ちを覚えながら〇〇を見下ろす。

だが……

〇〇「そんな顔をしたディオンさんを、放っておけません」

(何?)

ディオン「お前……」

〇〇「……」

〇〇は、見たことがないほど強い眼差しで俺を見上げていた。

(俺と一緒にいても、お前は不幸になるだけだ)

(そう、言ったはずだってのに……)

ディオン「……馬鹿だな、お前」

(だが……それはきっと俺も同じだ)

(わざわざ遠ざけてまで幸せになってほしかった女を、結局手放せないのだからな)

目の前の〇〇に手を伸ばし、きつく抱きしめる。

肩越しに見える月は、先ほどよりも妖しさを増しているように感じられた…-。

……

そうして、〇〇を地の国に連れ帰った翌日…-。

〇〇「あの……ここは?」

ディオン「地の神殿だ」

二人の想いが決して揺るがないと確信した俺は、彼女を連れて地の神殿へとやってきた。

ディオン「月の光のもと、この場所で愛を誓うと愛の契約が成立する。 愛を誓った相手以外、二度と愛してはいけない。それを破ると命を奪われるんだ」

俺の言葉を聞いた〇〇が、小さく体を震わせる。

(怖いか?だが……)

(何度警告しても俺から離れなかったのは、お前だ)

〇〇「……っ!」

〇〇をきつく抱きしめた後、近くにある椅子へと押し倒す。

ディオン「今、ここで誓おう。俺は、お前意外愛さない。 もしその誓いを破ったなら……俺はこの命を差し出そう」

〇〇「ディオンさん……」

(怯えるな)

ディオン「それぐらい、お前に会えて幸せだって言ってるんだ。 だが、契約は一人では成立しないからな。 ……お前はどうする」

(まあ……今さら嫌だなんて答えは認めんがな)

そんなふうに思いながら答えを待っていた、その時だった。

〇〇「誓います。私も、ディオンさんだけ…-」

(……かわいい女だ)

〇〇のまぶたにキスを落とす。

ディオン「何があろうと、死が二人を分かつまで……離れない。 俺にはお前だけだ。 俺を受け入れてくれるお前を……一生愛すると誓う」

〇〇の体、そしてその先にある心を優しく撫でるようにしながら、手や唇を這わせる。

ディオン「愛してる、〇〇」

俺の声に彼女が小さく体を震わせた瞬間、神殿の鐘が高らかに鳴り響く。

契約の成立を思わせるようなその音を耳にしながら、俺は彼女の熱に溺れていったのだった…-。

おわり。

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