月最終話 彼の傍に……

月は満ち、明るく夜を照らしている…-。

月が照らす明るい道を辿り、私は洞窟へやって来ていた。

(ヴィムを、助けてあげたい)

その一心で、洞窟を進んで行くと…-。

〇〇「……ヴィム!」

狼の姿をしているけれど、それは確かにヴィムだった。

彼は、拘束具に繋がれ、うなだれるようにしてそこにいた。

ヴィム「あんた……まだ帰ってなかったのか」

半ば呆れたように、ヴィムが笑う。

〇〇「ヴィム…-!」

急いでヴィムに駆け寄ろうとすると…-。

〇〇「……!」

突然、一匹の大きな狼が、私の前に飛び出してきた。

ウウ、と低い声でこちらに向かってうなり声を上げる。

ヴィム「やめろ! 彼女を傷つけるな!」

ヴィムが声を上げた瞬間、狼の逆立っていた毛が落ち着く。

剥き出しにした牙も、見えなくなった。

私は、ゆっくりと彼に近づいた。

ヴィム「……来るな」

拘束具が揺れる音がする。

私を襲いかけた狼が、小さくうなる。

〇〇「ヴィム……」

ヴィム「……っ」

そっと、毛むくじゃらの彼の頬に手にひらを当てて、優しく撫でる。

くうん、と悲しげに鳴いたのが、そばにいる狼か、目の前のヴィムなのかは、わからなかった。

〇〇「サラさんは、こんなこと望んでないよ。ヴィム……」

ヴィムの顔が、せき溢れる何かを堪えるようにぎゅっと歪んだ。

ヴィム「鍵を」

言うと、先ほどの狼が、ちゃりん、とヴィムに鍵を投げてきた。

それを使い、ヴィムが器用に拘束具を外していく。

ヴィム「あいつは、俺の友達。鍵番だ」

ヴィムが一声吠えると、それに応えるように狼も吠える。

〇〇「ヴィム、また痣が……」

ヴィム「痣があると安心してたんだ。自分を戒めてるって。 ……馬鹿みたいだよな」

ヴィムは自由になった手足を軽くさすりながら、自嘲気味に微笑んだ。

〇〇「ヴィム……とりあえず、洞窟から出よう?」

洞窟を出れば、月夜に輝く花畑が広がっている。

ヴィム「もう5年ぶりに、こうして満月をゆっくりと仰いだ」

〇〇「綺麗だね」

微笑みかけるも、ヴィムは神妙な顔をして私から目を逸らしてしまう。

ヴィム「〇〇……サラは、あんたの夢の中で、そんなに悲しそうだったのか?」

〇〇「うん……すごく、ヴィムのことを心配してた」

ヴィム「そうか……死んだ人間にまで心配かけるなんて駄目だな。 あんたにも、心配かけちまった。 怖かっただろ?」

〇〇「ううん」

ヴィム「〇〇……」

〇〇「……っ!」

ヴィムが、そっと私を抱き寄せた。

その手はわずかに震えていて、けれどとても力強くて……

ヴィム「あんたが心配するから、もう自分を戒めるのはやめにする」

〇〇「ヴィム……!」

ヴィム「ただ……やっぱり俺は、自分を許せないんだ。 あいつの人生を奪ってしまったのは俺だから。 ならせめて……この姿を背負って俺は生きていく。 俺の意志で……もう人間の姿には戻らない」

〇〇「どうして…-」

ヴィム「自己満足だ……でも、それが俺の償いなんだ」

ヴィムの意志は堅く、揺るがないもののように思えた。

ヴィム「けど、今は…-。 あんたと、こうしていたい」

私を抱き寄せるヴィムの手の力が強くなる。

〇〇「ヴィム……」

ヴィムが甘えるように顔を摺り寄せてきて、私は彼の喉をそっと撫でた。

私達を照らす満月の光は、とても優しく感じられて…-。

その光に、私はいつか彼の心が解放されることを、強く願ったのだった…-。

おわり。

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