月最終話 私の王子様

揺らめく幻想的な光は、どこまでも続く鏡の世界を照らしだす…-。

プリトヴェン「死神が王子から姫をさらってしまうなんて結末……いいわけない」

(確かに、普通の結末じゃないかもしれないけど……)

湖面に映し出されたプリトヴェンさんの死神姿を見ていると、複雑な思いでいっぱいになる。

〇〇「何か方法が…-」

そう言いかけた時、ふわりとリンゴの香りが鼻をくすぐった。

(そうだ、物語を完結させるなら……)

あることを思いついた私は、プリトヴェンさんに真っ赤なリンゴを手渡した。

プリトヴェン「?」

〇〇「プリトヴェンさん……このリンゴを、私に食べさせてください」

プリトヴェン「……え。 君は、何をしようとしてるんだ?」

不気味な輝きを放つリンゴを前に、彼はためらいの表情を浮かべる。

女性に恋をした死神は、リンゴを食べさせてその人の魂を連れ去ろうとした。

(でも、主人公……私が、王子様じゃなく死神に惹かれたとしたら……?)

〇〇「主人公は、自分をさらってくれるほど想ってくれた死神と結ばれ、幸せに暮らした…-。 そんな結末も、面白いと思いませんか?」

彼の手に自分の手をそっと添え、リンゴを一口かじる。

プリトヴェン「〇〇……!」

驚きの声を上げる彼の声を聞きながら、私は甘酸っぱい果実を飲み込んだ。

〇〇「……」

張り詰めた空気が漂う中、プリトヴェンさんは私をじっと見守るけれど……

プリトヴェン「……なんともない?」

〇〇「……そうみたいです」

プリトヴェン「いったい、どうして……」

(それは、たぶん……)

〇〇「リンゴは、死神が主人公の魂を奪うためのものですよね」

(だったら……)

〇〇「私の心は、もうとっくにプリトヴェンさんだけのものだから」

プリトヴェン「……!」

私だけを見つめる大きな瞳が、静かに揺らめく。

〇〇「……だから、何も起きないのかもしれません」

プリトヴェン「……」

驚きを隠せずにいるプリトヴェンさんの息づかいだけが、静寂に溶けた。

(私……今すごく大胆なことを言ってしまったかも)

徐々に恥ずかしさが込み上げて、私は今さらながらに耳の先まで熱くなってしまう。

〇〇「あの、私…-」

照れくささを隠すように口を開いた瞬間……

スチル

力強い指先が私を捉えて、彼の胸へと引き寄せられた。

プリトヴェン「……っ」

彼の大きな瞳が伏せられたかと思うと、熱い口づけが落とされる。

〇〇「……っ!」

柔らかな唇から伝わる彼の想いが熱となって、私の体を甘く駆け巡った。

プリトヴェン「……勝手に触れて、ごめん。でも、君への気持ちが止められなくて……。 こうせずにはいられなかったんだ」

優しく紡がれる誠実な言葉が、淡雪のように耳元で溶けていく。

プリトヴェン「君がくれる想い全部が、どうしようなく嬉しくて。 その……こういう方法でしか気持ちを表せなかった」

切なげな色を宿した瞳で見下ろされると、彼の想いが痛いくらいに伝わって…-。

頬を紅色に染め上げる彼が愛おしくてたまらない。

〇〇「……嬉しいです。 だって……私もプリトヴェンさんが大好きだから」

溢れ出す想いを伝えたくて、彼の逞しい胸に身を委ねた。

プリトヴェン「君は、本当に…-」

何かつぶやくように言葉を切ったプリトヴェンさんが、私を抱く力を強めてくる。

プリトヴェン「今なら……俺、死神の気持ちがよくわかるよ。 死神は……恋した人の心を、全部独り占めにしたかったんだ」

吐息混じりの囁きが、私の頬を悩ましげに撫でて…-。

プリトヴェン「さっき君は、君の心がとっくに俺のものだって言ったけど。 俺の方こそ……魂ごと、君に奪われてる」

もう一度近づいた唇を、目を閉じて静かに受け入れた。

(……死神に心を奪われた女性と、女性に魂を奪われた死神)

(きっとこの物語の結末は…-)

プリトヴェンさんの想いに応えるように、私はそっと彼の背中へと手を回す。

絵本の物語は終わっても、彼との幸せな時間が続くようにと願いながら…-。

おわり。

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