目の前に広がっているのは、煌めく光に満ちた空間だった…-。
〇〇「ここは……?」
プリトヴェン「鏡の中の世界……なのかな」
不思議なことに、私達は幻想的な光を映し出す湖の水面に立っている。
(でも……)
〇〇「『死神とリンゴ』のお話に、こんな展開はなかったはず、ですよね……?」
プリトヴェン「……俺の気持ちに反応したのかもしれない」
〇〇「え?」
プリトヴェンさんは、困惑に満ちた表情を浮かべていた。
プリトヴェン「ほら見て。俺達の姿を」
彼に促され、足元に広がる湖面に視線を落とすと……
赤いドレスをまとった私と、死神のような黒い布をまとったプリトヴェンさんの姿が映っている。
〇〇「……!?」
驚いて視線を戻すけれど、どうやら変化しているのは湖に映し出された姿だけのようで……
(いったい、どうして?)
プリトヴェン「……あの時、王子に君を渡したくないって、俺は強く思ってしまった」
〇〇「え……」
聞こえてきた言葉に、思いがけず胸が高鳴る。
視線を上げると…-。
プリトヴェン「『死神』の俺がそう願ったから、君をここに連れて来てしまったんだと思う」
そう仮説を裏づけるかのように、彼の手にはいつのまにか真っ赤なリンゴが握られていた。
(プリトヴェンさんが、死神……)
力なくリンゴを放り投げると、彼はその場にしゃがみ込む。
〇〇「プリトヴェンさん……?」
私は転がってきたリンゴを拾い上げると、彼の隣に腰を下ろした。
そっと横顔を覗き込むと、プリトヴェンさんは困ったように首をすくめてみせる。
プリトヴェン「物語を終わらせないと、ここから出られない」
彼はふっと息を吐き出すと、静かに苦笑する。
プリトヴェン「死神が女性をさらってきてしまうなんて、こんな展開……子ども達に楽しんでもらえないよね。 駄目だな、俺」
〇〇「そんなこと……」
かける言葉がすぐには見つけられず、胸の奥が切ない音を立てる。
プリトヴェン「他の王子の元に君が行ってしまうなんて思ったら……。 たとえ絵本の中だって、そんなのは絶対に嫌だって、思ってしまったんだ」
(そんなふうに思ってくれてたなんて……)
ひとつひとつ紡がれる言葉は、すべて私に向けられたもの……
徐々に熱を持つ私の頬とは裏腹に、彼は色づいた頬を隠すように瞳を伏せた…-。