月SS 最高の結末を

絵本の住人達から、王子に関する話を聞いた後……

〇〇「街の人達を、助けてあげることはできないでしょうか」

〇〇の声が、重苦しい空気を凛と震わせた。

〇〇「私がこの物語の主人公なら、何かできることがあるかもしれませんし……」

(……!)

〇〇の言葉に、俺は軽い驚きと共に目を見張った。

(すぐ隣に、大魔法使いの俺がいるってのに…-)

(お前は、自分でできることを探すんだな)

もっと頼ってほしいという焦れったさを覚えながらも、それを上回る高揚感が胸を満たす。

(それでこそ、俺が惚れた女だ)

そんな女だからこそ、俺は持てる力のすべてを使って、願いを叶えてやりたいと思う。

ドロワット「……お前なら、そう言うと思ったぜ」

〇〇「ドロワットさん、どこへ?」

ドロワット「決まってるだろ? やりたい放題の王子様をこらしめに行くんだよ」

手を差し出すと、〇〇はきらきらとした瞳で俺を見つめていた。

ドロワット「絶対に、俺から離れるなよ」

〇〇「はい……!」

俺の手を、〇〇がしっかり握り返してくる。

自分より一回りも小さな手を守ってやりたいと思いながらも、俺は遠くに見える王子の城を見据えたのだった。

……

雲が完全に月を隠し、辺りが薄闇に覆われていく…-。

ドロワット「もうその靴は必要ねぇだろ。脱いじまえよ」

闇を弾くように輝くガラスの靴が気に入らなくて、俺は〇〇の足元を睨みつけた。

ドロワット「その靴は、この物語の王子と結ばれるためのものだろ? 物語の中のこととはいえ、お前が他の男と結ばれるためのもの靴を履いてるのは気に入らねぇ……」

(お前には、俺の贈った靴を履いててほしいんだよ)

(……お前は俺の、誰より大切な女だから)

今にも口からこぼれそうな想いを持て余していると……

〇〇「わかりました。 私も……誰かと結ばれるなら、相手はドロワットさんがいいです」

迷いのない口調で言い切って、ガラスの靴を脱ぎ捨てて俺の手を取る。

ドロワット「お前……」

(どこまで俺を夢中にさせれば気が済むんだ?)

ドロワット「……これ以上、惚れさせんなよ」

込み上げる愛しさのままに〇〇の腕を引き、自分の膝の上に座らせて…―。

ひとつ指を鳴らせば、馬車は軽やかに走り出した。

ドロワット「お前って本当に、俺を喜ばせるのが上手いよな」

〇〇の華奢な背中を指でなぞれば、彼女はくすぐったそうに小さく身じろいだ。

ドロワット「どんだけお前に惚れてるか聞かせてやりたいけど……それは、この物語を終わらせてからにするか」

(きっと、一晩かかっても終わらねぇだろうから)

俺の言葉に、〇〇は嬉しそうに目を細める。

〇〇「舞踏会を中止させたら、この物語はどんな結末になってしまうんでしょうか」

くすくすと喉を震わせる〇〇の声は、いたずらをたくらむような色気があった。

その声に乗せられるように、俺も囁くような声で答える。

ドロワット「さあな? ま、せいぜい俺は、悪い魔法使いを演じてやるよ。 その後は、俺達なりの結末を探してみようぜ。きっと面白い物語になるはずだ」

(お前に、最高の結末を見せてやるよ)

(ま、俺としては……お前と一緒ならどんな話になっても最高に違いないけどな)

かわいらしく体を預けてきた〇〇の細い顎をそっとすくい取って……

俺はその小さな唇に、口づけを贈ったのだった…-。

おわり。

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