トリックパーティの会場に到着すると、私は足を止めた。
(暗い……なんだか、思ったより怖いかも)
遠くから聞こえてくる悲鳴に思わず体を震わせていると、モルタさんが私を振り返り、安心させるように微笑む。
モルタ「良ければ手を」
差し出された右手を見て、おずおずと手を差し出した。
モルタ「安心してください。私が傍にいますから。 離れろと言われても……離れる気はありません」
その言葉や左手を包む力強い手に、安堵の気持ちを抱くものの……
同時に、なぜかぞくりと悪寒が走る。
(モルタさん……)
月明かりを受けて妖しく光る赤い瞳がゆっくりと細められた後、私達は会場の奥へと歩みを進める。
…
……
それから、しばらく…-。
男の子「ぴょーん!!」
〇〇「っ……!?」
暗がりに転がっていた大きな卵が割れて、中からウサギに扮した子どもが飛び出した。
息を詰まらせていると、子どもはそのままぴょんぴょん跳ねて暗闇に消えていく。
モルタ「ふふっ、驚きましたね」
〇〇「は、はい……すごく。 だけど、とってもかわいらしかったです」
ここまで来る間も、私達はさまざまないたずらで驚かされた。
それらはすべて、子ども達が今日のために頑張って考えたいたずらで……
(びっくりしたけど……どのいたずらも、すごくかわいかった)
モルタ「……」
思わず笑みをこぼす私を、モルタさんが見つめていた。
〇〇「モルタさん? どうしたんですか?」
モルタ「いえ……とても楽しそうだなと思いまして。 そんなあなたを見て、私も楽しいと感じている」
〇〇「モルタさん……!」
彼の『楽しい』という言葉に、喜びが溢れてくる。
けれど……
モルタ「……だからでしょうか。 欲が……出てきてしまったんです」
〇〇「えっ?」
モルタさんが、暗がりへと私を引き込む。
そして、そのまま…-。
〇〇「! モルタさん、何を……!?」
彼が、しっかりと私を抱きしめる。
何の前触れもなく起きた出来事に、戸惑いで体が動かない。
モルタ「あなたは……一緒に考えてくれると、言いましたよね……?」
(考え、って……?)
―――――
〇〇『いろいろ、モルタさんの中で抱えていることもあると思います。 パーティが終わったら……私も一緒に抱えさせてもらえませんか?』
モルタ『……一緒に?』
〇〇『はい。二人で一緒に悩んで、考えて……そんなふうにできたらって思うんです』
―――――
〇〇「もしかして昼間のこと……ですか?」
モルタ「ええ……まだ、パーティの途中ですが、思ったことがあるんです」
〇〇「それって……?」
耳元で響くモルタさんの声は、いつもよりも低く……
先ほどまでとは違う理由で、私の鼓動を進めさせる。
モルタ「ええ、それは……。 あなたが私と一緒に、傍にいてくれる……私のものにできるのであれば……。 それは、とても楽しいことであると思ったんです」
(私が、モルタさんのものに……?)
艶をまとった声音に、まるで体温を引き上げられていくように、体は、自分でも驚くほど熱くなっていくけれど……
モルタ「悩みや苦しみは……あなたが傍にいれば和らぐ。 この気持ちは……死への憧れとも近いかもしれない。 あなたと一緒に、いけたなら……どんなに楽しいか」
(死……?)
再び、背中にぞくりとした感覚が走る。
〇〇「モルタさん、私…―」
モルタ「あなたが楽しめと言ったのですから、付き合ってくれますよね? 最期の、その瞬間まで…-」
甘く誘うような声と彼から伝わる体温が、恐怖に囚われる心を搔き乱し……
〇〇「……はい」
気づけば私は、そう答えていた。
モルタ「ありがとう、〇〇さん」
恐怖はいつの間にか、愛おしさで塗りつぶされている。
そんな私に、モルタさんはゆっくり顔を近づけると……
まるで吐息を奪うかのように深く、唇を重ねたのだった…-。