波の音が、静かに私達の間に満ちている…―。
オリオン「こっちへ来い。 ○○」
名前を呼ばれ、早鐘を打つ胸が今まで以上に騒ぎ始める。
(海の中の神殿に行く方法って……。 キス……するんだよね)
オリオンさんとキスをすると、一時的にオリオンさんの力を分けてもらえる…―。
(その力があれば、水の中でも呼吸ができるようになるけど……)
何も言うことができないまま、胸の高鳴りだけが速くなっていく。
その場から動けない私をからかうような笑い声が聞こえた。
オリオン「期待に応えてやってもいいが」
○○「っ……!」
胸のうちを言い当てられた気がして、顔が熱くなっていく。
オリオン「少し待っていろ」
私の戸惑いを感じてか、オリオンさんはそのまま一人で海へと入っていく。
○○「え?オリオンさ…―」
声をかけ終わる前に、オリオンさんの姿は海の中へと消えた。
(行っちゃった……)
砂浜に取り残され、私は彼へと伸ばしかけていた手を下した…―。
…
……
なだらかな海の上を、カモメが低空飛行で飛んでいく…―。
その羽ばたきを見つめ、私はオリオンさんの帰りを待っていた。
(オリオンさん……どうしてるかな?)
まだわずかな時間しか経っていないのに、寂しさを感じてしまう。
(あの時、素直にオリオンさんの傍に行っていたら)
ーーーーー
オリオン「こっちへ来い」
ーーーーー
わずかな後悔に心が揺れ動き、私は波打ち際に近づく。
(ちょっとだけ、海へ入ってみようかな……?)
けれどその時、沖の方でオリオンさんが海から顔を出した。
まとわりつく髪を掻き上げ、私の姿を探すように視線を彷徨わせる。
○○「オリオンさん……」
波打ち際に立つ私を見つけ、彼はニヤリと笑みを浮かべた。
オリオン「一人で留守番もできないのか?」
○○「……!」
何も言い返せず、私は押し寄せる波を見下ろす。
オリオン「寂しかったのなら、素直に俺を呼べばよかっただろう」
オリオンさんはこちらへと泳いでくると、砂浜に立ち上がった。
滴り落ちる水もいとわず、彼は私へと手を差し出す。
オリオン「お前もこっちへ来い。そのままで大丈夫だ」
○○「オリオンさん……」
オリオン「今度は迷うな。俺にすべて任せろ」
力強い声に惹かれるように、私は彼の手に自分の手を重ねる。
陽の光が、彼の頬を伝わり落ちる水滴を艶やかに輝かせていた…―。