月が、心に秘めた想いまで照らし出すように煌々と輝いている…-。
文豪と令嬢が別れを告げた庭園には、虫達のもの悲しい鳴き声が響いていた。
その声に耳を澄ませていた時…-。
〇〇「カゲトラさんは……もし同じ立場だったら、どうしますか?」
カゲトラ「え?」
俺が思わず驚きの声を上げると、〇〇が、しまったという顔をする。
〇〇「いえ、なんでもないです。 作者の気持ちにすごく同調してるように見えたから、その……」
そう言って〇〇は誤魔化そうとするが、俺は煙草をもみ消すと、彼女に向き直った。
カゲトラ「俺は、どんなにみっともねえ姿を晒そうとも、お前を奪いにいく」
〇〇「……!」
俺の言葉に、〇〇が息を呑む。
カゲトラ「あいつらの愛の形を否定するつもりは毛頭ねえが……。 想うだけなんて無理だ。愛する女は、この手で抱きしめたい」
(いつだって、俺自身の手でお前を幸せにしてやりたいんだ)
(お前も……それを望んでくれるか?)
俺は、そっと彼女に片手を伸ばし……
カゲトラ「お前は? ……俺に、奪われてくれるか?」
腰に緩く腕を回し見下ろすと、俺だけを映す〇〇の瞳が瞬く。
やがて頬を赤らめながら、彼女は静かに頷いた。
(やがて……)
込み上げてくる想いのまま、強く〇〇の体を抱き寄せる。
(……好きだ)
彼女の顎に指を添えて自分の方に向かせると、何も言わないまま唇を重ねた。
(お前を、誰よりも……)
さらに深くキスをすると、少しずつ〇〇の体から力が抜けていく。
カゲトラ「絶対に……お前を離さねえ」
唇を離した俺は、その言葉の通り〇〇の体を腕の中に閉じ込める。
だが、そんなふうに互いの温もりを確かめ合っているうちに……
(……もっと、お前の温もりに触れたい)
怖いぐらいに美しい満月の下、もどかしさを感じた俺は〇〇をじっと見つめる。
そんな俺を、彼女は熱を帯びた瞳で見つめ返し……
カゲトラ「もっと、お前に触れたい。 ……来てくれるか?」
〇〇「はい……」
囁くように返事をする〇〇の手を引き、俺はその場を後にした…-。
…
……
滞在先に彼女を連れて戻ってくると、室内を月光が柔らかく照らしていた。
〇〇「……」
カゲトラ「……」
部屋を満たす沈黙から、彼女の緊張が伝わってくる。
カゲトラ「……〇〇」
俺は怖がらせないようにゆっくり手を伸ばし、彼女の頬を撫でた。
けれど彼女は、びくりと体を震わせて……
カゲトラ「怖いか?」
〇〇「いえ……すみません、そうじゃないんです。 そうじゃなくて、その……」
〇〇は困ったように言い淀んでいる。
その様子を見てすべてを察した俺は、彼女の体をそっと抱き寄せ……
カゲトラ「大丈夫だ。 もう、わかったから」
〇〇の頭を撫でながら、俺はそっとキスを落とす。
するとその瞬間、彼女は先ほどと同じように体を震わせた。
(かわいいな。お前は)
(……大事にする。絶対に)
触れるだけのキスを、角度を変えて何度も交わしていると……
〇〇「カゲトラさん……」
息継ぎの合間につぶやかれたその声は、今まで聞いたことがないぐらい甘い。
長いキスの後、彼女の柔らかい頬に触れながらその瞳を覗き込んだ。
カゲトラ「お前を愛している……これからも、ずっと」
〇〇「私も、カゲトラさんを愛しています……」
その言葉に鼓動が大きく跳ね、何もかもを奪ってしまいたいような衝動に駆られる。
だが……
カゲトラ「大切にする」
衝動を抑え込んだ俺は、お互いの境目などなくなってしまえばいいと思いながら彼女を強く抱きしめた。
すると彼女も、俺を強く求めるように抱きしめてくれて……
青白い月明りの中、二人の時間の始まりを告げるような深いキスをするのだった…-。