月最終話 君が大人になった頃に

平日のせいか恵まれた天気の割には人通りが少ない。

私とトトリさんは静かな街並みを二人で周り、時間を共に過ごす。

(これが、トトリさんと過ごせる本当に最後の時間……)

やがて私達は、街外れの静かな広場へと足を延ばした。

トトリ「わたしはここのベンチで本を読むのが好きなんです。 どうぞ、〇〇さん」

石造りのベンチに、トトリさんがポケットから取り出したハンカチを敷く。

無駄のないスマートな動きにお礼も忘れて、ただ頷いて腰かけた。

〇〇「気持ちのいい風……」

トトリ「耳を澄ましてみてください。木々が葉を揺らす音が心地よいですよ」

そっと、耳元に手を寄せると、さわさわと優しい音が耳に届く。

(静か……街中にいることを忘れてしまいそう…)

昨日一睡もできなかったせいか、その優しい音に眠りに誘われて……

私はそっと目を閉じた……

……

トトリ「……さん……〇〇さん?」

(優しくて、静かな声……)

(この声は……トトリさん……?)

〇〇「あ……!」

慌てて目を開くと、目の前には優しげに微笑むトトリさんと、星の瞬く夜空が広がっていた。

私はどうやら彼の膝枕の上で、寝てしまっていたらしい。

(そんな……トトリさんと過ごせる最後の一日だったのに……)

トトリ「目覚めましたか?」

上体を起こすと、私に伸ばしかけたトトリさんの指先が一瞬、私の頬の前で止まる。

トトリ「……君は、どうして泣いているんですか?」

〇〇「え……あれ、本当ですね、なんでだろう……」

自分でも理由がわからず、まばたきをして涙を誤魔化そうとする。

トトリ「……。 日が暮れました……そろそろ城へ戻りましょう」

トトリさんが私から顔を逸らし、静かにベンチから立ち上がる。

〇〇「……はい」

涙をぬぐい、彼と並んで城へ歩き出した…-。

……

城の廊下を、トトリさんと並んで無言で歩く。

(これで、もう本当に最後……)

切なさで苦しくなる胸を押さえていると…-。

トトリ「……わたしのせい、ですか?」

不意に、トトリさんが言葉をこぼした。

トトリ「君がそんなに悲しそうな顔をしているのは……」

〇〇「……」

気を抜くと再びこぼれ落ちそうになってしまう涙をこらえながら……

〇〇「私は……トトリさんから見ると、妹のようなものかもしれません……」

胸にいっぱいになる気持ちを、なんとか言葉にした。

〇〇「それでも……私はあなたと、一緒にいたい……」

トトリ「〇〇さん……」

トトリさんの柔らかな金髪が星の光を受けてきらきらと輝いている。

彼はふっと唇を微かに開いて笑うと子どもをあやすように私の頭を優しく撫でた。

トトリ「君が……もう少し大人になったら考えます。 背伸びなんてしなくていいのです、今の君のままで……。 もっと多くのものをその瞳で見て楽しむべきです。 きっと、今の君にしか作れない思い出や、感じられない気持ちがあるはずですから」

〇〇「今だけ……?」

トトリ「ええ、だからいつか多くを学んだら、またこの国を一緒に歩きましょう? 一緒にこうして手を繋いで」

男の人の、骨ばった長い指先が私の指に絡む。

〇〇「本当に……?」

トトリ「はい。約束します」

〇〇「トトリさん……」

トトリ「必ず待っていますから……」

こうして約束を交わして、切なさと共に私はトリアールを去った。

いつか来るこの国で再会するトトリさんとの日々を心待ちにしながら……

おわり。

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