月SS この世の不思議

まぶたの裏の明るさに目を開けると、柔らかな陽光が窓から差し込んでいた。

(……朝か)

体を起こそうとして、腕がわずかに重いことに気づく。

隣を見れば、〇〇が俺の腕を握ったまま気持ちよさそうに眠っていた。

(……子どものような寝顔だな)

自然と口元が緩むのを感じながら、〇〇の頬にキスを落とす。

〇〇「……ヴァスティさん?」

〇〇はまだ少し眠そうに目を開けると、口づけたばかりの頬に手を触れた。

キスされたことに気づいたのか、頬が淡く染まる。

ヴァスティ「眠れたか?」

〇〇「はい。ヴァスティさんが隣にいてくれたので、安心して……」

〇〇の無邪気な言葉が、俺の心を刺激した。

ヴァスティ「朝から俺を煽って、どうするつもりだ?」

〇〇「! そんなつもりは……」

慌てたように首を横に振る〇〇が、愛しくてたまらない。

少し乱れた髪を直して、額に口づけてやる。

ヴァスティ「朝食が済んだら、行きたい場所がある」

〇〇「行きたい場所……ですか?」

ヴァスティ「ああ。お前も…-」

〇〇「もちろん、一緒に行かせてください」

言い終える前に〇〇が笑顔で応える。

その反応に、俺は少し驚いていた。

(ブレスレットの件があってから……何やら、素直になった気がするな)

いずれにせよ、愛らしいことは変わらない。

ふっと笑みをこぼす俺を、〇〇は不思議そうに見つめるのだった…-。

……

朝食を終え向かったのは、昨日訪れた雑貨屋だった。

〇〇「ヴァスティさん、どうしてこのお店に……?」

〇〇が戸惑うように俺を見上げる。

ヴァスティ「ブレスレットのことだ。あの現象の原因をわからないままにしておくのは、性に合わん。 俺のものについて、しっかりと理解を深めておかなければならないからな」

〇〇は何度か目を瞬かせると、小さく笑った。

ヴァスティ「なぜ笑う?」

〇〇「ごめんなさい。ヴァスティさんらしいなと思ったんです」

唇の端を持ち上げ、〇〇の髪を撫でる。

〇〇「あ、あの……?」

ヴァスティ「ああ。その反応はお前らしい」

〇〇「!」

〇〇が頬を朱に染めた時、俺達に気づいた店主が歩み寄ってくる。

店主「お客さん達は……確か昨日ブレスレットをお求めになられた…-」

ヴァスティ「ああ。おかげで大変な目に遭ったぞ」

店主「なるほど……ですが、そのことでお二人の仲はより深まったんじゃありませんか?」

ヴァスティ「なぜそう思う?」

店主「あのブレスレットを揃いで買われた方は大抵、その日のうちに困り果ててこの店に返品に来ます。 けれど、お客さん達はいらっしゃいませんでしたから」

店主は愉快そうに目を細め、俺と〇〇を交互に見る。

(ほう。なかなかいい性格をしているようだな)

店主「……さて、ブレスレットの返品に来られたのでしょうか?」

俺は手を持ち上げ、横に振ってみせた。

ヴァスティ「いや、あの現象の原因がわかればと思ってここに来ただけだ。 返品はしない。あれはもう、俺のものなのだからな」

俺は〇〇の手を取り、なぜか嬉しそうに目を細めた店主に背を向けたのだった…-。

……

太陽の光を降らして、街路に濃い影を作る。

頬に風を感じながら、俺と〇〇はトランピアの街を歩いていた。

〇〇「……結局、あのブレスレットはなんだったんでしょうか」

俺をうかがうように見上げてくる〇〇の瞳を見つめ返す。

ヴァスティ「それもまた、この国の不思議とやらなのだろう。 あのブレスレットのおかげで、俺の知らないお前を知ったのは事実だからな」

俺の答えに、はにかむように微笑む〇〇の肩を抱き寄せた。

(ならば、俺はそれを楽しむことにしよう)

〇〇「!」

わずかに顔が上向いた瞬間、柔らかな唇へと自分のそれを重ねる。

〇〇「……っ、ヴァスティさん、人が見ています」

ヴァスティ「言っただろう。俺は欲しくなった時にお前を求める。 だから、お前もそうすればいい」

〇〇「……っ。はい…-」

彼女の肯定に満足し、俺は吐息まで奪うように唇を重ねる。

(お前といると、俺はどこまでも欲深くなる)

(俺がお前を望むほどに、お前も俺を望めばいい)

(全てを奪い全てを与える。それこそが、俺の強欲……)

わずかに湿り気を帯びた〇〇の唇が、さらに俺を誘う。

街路から跳ね返る日差しがゆらめく中、俺は奪い尽くすように口づけを深めた…-。

おわり。

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