月最終話 未来への約束

フリュー「そんなふうに思ってくれてたなんて……嬉しい……」

海底から浮き上がる真珠のような泡が、フリューさんの周囲を包む…-。

その中で幸せそうに微笑む彼に、胸が甘く音を立てた。

フリュー「僕もきみに……ここで歌を届けたいって思ってたんだ。 でも、あと少しの勇気が出なくて……。 まさか、きみから言ってもらえるなんて……思ってもみなかった……」

嬉しそうに弾む声が、何よりも雄弁にフリューさんの気持ちを伝えてくれる。

(勇気を出して、自分の気持ちを伝えてよかった)

そう思いながら胸を撫で下ろした時……

フリュー「あの……」

先ほどの笑顔から一転して、彼の瞳が真剣な光を宿す。

フリュー「ちゃんと……改めて言いたくて……。 どうか、僕の歌を……聴いてください」

〇〇「……はい」

思わず背筋を伸ばして、小さく頷く。

歌うフリューさんの邪魔にならないように、後ろへ下がろうとすると…-。

フリュー「……」

そっと優しく手を取られ、逆に引き寄せられた。

〇〇「フリューさん?」

私の手を握ったまま、フリューさんが笑みを深める。

フリュー「きみに聞いてほしいから、誰よりも……一番近くにいて?」

(一番近くに……)

その意味を理解する前に、すうっと小さく息を吸う音が聞こえた。

フリュー「……♪」

(わあ……)

透き通った声が、海の中をどこまでも広がっていく。

長いまつ毛を伏せて歌うその姿は、凛として見とれるほど美しかった。

〇〇「綺麗……」

思わずため息をこぼすと、フリューさんがこちらへ視線を向ける。

フリュー「……きみも綺麗だよ。 恥ずかしくて、なかなか言えなかったけど……。 きらきらしてて、ずっと見ていたいなって……思ってた」

〇〇「……!」

甘い響きを含んだ囁きに、頬が熱を帯びていくのがわかった。

〇〇「す、すみません。歌の邪魔をしてしまって」

フリュー「ううん……邪魔なんかじゃないよ」

そう言うと、フリューさんはふと何かを思いついたように目を見開く。

フリュー「あの……〇〇さん」

さらに互いの顔が近づいて、大きく鼓動が跳ねた。

間近にあるフリューさんの瞳が、私の姿をはっきりと映し出して…-。

フリュー「背中を押してくれて……ありがとう。 僕の歌を聴きたいって言ってくれた時、すごくびっくりしたんだ。 でも……同じくらい、すごく嬉しかった。 だから……」

繋いだ手に、そっと力が込められる。

こつんと額が触れ合い、噛みしめるような声が私の鼓膜を震わせた。

フリュー「今度は……地上でちゃんときみに歌を届けられるように頑張るから……。 これからも、僕の隣にいてほしい」

(フリューさん……)

そのまっすぐな言葉に、胸がいっぱいになる。

〇〇「はい……楽しみにしていますね」

微笑みながら答えると、フリューさんも安心したように口元を緩めた。

フリュー「うん。約束する……」

小指と小指を絡め合い、未来への約束を胸に刻む。

フリュー「さあ、虹をかけに行こう。 虹がかかったら……また、きみのために歌いたい……な」

〇〇「……はい!」

私達は再び肩を並べて、青く澄んだ海の中を歩き始めた。

(虹がかかったら、またフリューさん歌が聴ける……)

(楽しみだな)

どちらからともなく繋いだ手のまわりを、小さな魚達が戯れるように泳ぐ。

やがて魚達は、私達を先導するように少し先を泳ぎ始めた。

フリュー「もしかして……案内してくれてるのかな?」

〇〇「そうかもしれませんね」

フリュー「ふふっ……早く、見てみたいな。 きっと……綺麗な虹がかかるよ……」

確信に満ちたその声に、安らぎを感じながら……

私は青い海の中にかかる、二本の虹を思い浮かべていた…-。

おわり。

<<月5話||月SS>>