月最終話 彼の色に

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ウィル『じゃあ、僕を想う君の気持ちを色にしてみせてよ』

ウィル『知りたいな。君が思い描く色を』

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私は思いつくままに材料に手を伸ばし、液体に足していく。

(私のウィルさんへの想いは、どんな色をしているんだろう?)

液体の色が変化する度に、ウィルさんへの気持ちが強くなっていくような気がした。

……

しばらくして、ウィルさんが私の肩に手を置いた。

ウィル「ちょっとひと休みしない?」

庭に出ると、空はもうすっかり茜色に変わっていた。

〇〇「もうこんなに時間が経っていたんですね」

ウィル「君、驚くほど集中していたからね。 疲れただろう?」

(あ……)

気遣われたことを知って、なんだか申し訳ない気持ちになる。

けれど…-。

ウィル「君の真剣な表情を見られるなんて、僕は幸せ者だなって思ったよ」

〇〇「え……?」

さらりと告げられた言葉に驚いて、ウィルさんの方を振り向いた。

ウィル「そんなに意外かい? 君の想い……どんな色なんだろう? 柄にもなく僕も緊張するよ」

ウィルさんはいつもと変わらない笑顔を浮かべて、私の首にそっと触れた。

ウィル「緊張で、ずっとこの辺がドクドク言っててさ」

〇〇「っ……!」

思わずウィルさんから離れて、自分の首に手をあてた。

(私の鼓動も速くなってる……)

ウィル「そろそろ戻ろうか」

〇〇「はい……」

早鐘を打つ胸を抑えられないまま、私はウィルさんの後を追いかけた。

……

工房に戻ると、保管庫に入れておいた瓶を取り出した。

〇〇「できてる……」

色鮮やかなピンク色の液体が、瓶の中で揺れている。

ウィル「それが、君の僕への想い?」

〇〇「はい。ウィルさんと過ごした時のことを思い浮かべて。 一緒にいると楽しかったり、胸が温かくなったり、そういう想いを……」

ウィル「嬉しいな。そんな綺麗な色にしてもらえるなんて」

ウィルさんが液体を見つめ、顔をほころばせる。

(喜んでくれた……)

〇〇「ウィルさんは?」

ウィル「僕が自分で作った色は……」

ウィルさんが私に瓶を見せてくれた。

紫色の液体が、瓶の中でゆらゆらと揺れ動く。

ウィル「この不気味さ、僕や僕の作品そのものだと思わない?」

〇〇「……はい。 不思議な色……不気味だけど綺麗で、見ていると吸い込まれそうな気がします」

ウィル「……それは、褒めてくれてるのかな?」

ウィルさんが少し恥ずかしそうに肩をすくめた。

〇〇「褒めてますよ」

ウィル「なら、君も染まってみる?」

〇〇「え……?」

ウィルさんは微笑みながら、私へとゆっくりと近づいてくる。

歪んだ笑みが怖くなって、思わず後ずさってしまう。

けれど…-。

〇〇「っ!」

すぐに背中に壁が当たって、身動きが取れなくなってしまった。

ウィルさんが壁に手をついて、私をその場に捕まえた。

ウィル「君を僕の色に染めたくなっちゃった」

私の顔を覗き込むように、ウィルさんが顔を近づける。

〇〇「……っ!」

熱い息が頬に触れて、胸が大きな音を立てた。

ウィル「淡いピンク色も嬉しいけど……もっともっと、濃くしたいって思っちゃう。 君に知って欲しいんだよ。この鮮やかなピンク色よりも、もっと濃く歪んだ僕を。 そして、その色に君も染まればいいのにって思うんだ」

その眼差しから視線を逸らすこともできず、私は彼の瞳の中の光を見つめた。

ウィル「……君が僕の隣にいることを、どこか避けているように感じる時があってね」

〇〇「それは…-」

胸の内を言い当てられて、思わず声が漏れる。

けれど、ウィルさんが瞳を細めたことに気づいて、はっと口を手で覆った。

(気づいていた?)

ウィル「そんな必要はないんだ。だって紫色の僕は、ずっと君をこうしたかったんだから」

〇〇「……!」

ウィル「君を僕の色に染めたい。ダメかな?」

ウィルさんが許しを請うように私に問いかける。

〇〇「私は……」

嬉しいような、けれど恥ずかしいような……

けれどそれを言葉にできず、私は口を閉ざしてしまう。

ウィル「恥ずかしい? 怖い? どっちにしてもいい表情だ」

ウィルさんの手が私の頬に触れる。

答えられない代わりに、私は彼の手にそっと自分の手を重ねた。

ウィル「君が僕に染まった時、どんな表情を見せるのか楽しみだよ」

私の答えに気づいて、ウィルさんが怪しく微笑む。

(もう……とっくに染まってる)

今の自分が、いったいどんな表情をしているのか気になったけれど……

彼の熱が心地よくて……近づく唇に、私はそっと瞳を閉じた…-。

おわり。

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