街を彩るクリスマスの飾りが、冷たい風に吹かれて微かに揺れている…-。
〇〇「クローディアス君へのプレゼント、何がいいでしょうか」
花がほころぶような笑みを浮かべる〇〇様に、胸の奥から温かいものが溢れてくる。
(これが、クリスマスなのですね……)
大切な人と笑顔で過ごすのがクリスマスだと、前に彼女が教えてくれたことを思い出す。
不意に、隣を歩いていた〇〇様の手が私の手にぶつかった。
〇〇「あっ、すみません……」
一瞬感じた彼女の温もりに、鼓動が小さく跳ねる。
レイヴン「いえ。〇〇様は痛くありませんでしたか」
〇〇「はい……」
(このまま、あなたの手を取って歩いていけたなら……)
衝動に突き動かされて、彼女の手を握ろうとした時…-。
視界の端で、ショーウィンドウに飾られているアクセサリーが微かに煌めく。
(オフィーリア……)
白い花のネックレスは、まるでじっと私を見つめているように思えた。
胸を突き刺されるような痛みに、ぐっと拳を握りしめる。
(なんて愚かなのだろう……〇〇様の温もりを望んでしまうなんて)
(私に、そんな資格などないのに……)
〇〇「レイヴンさん、どうかされましたか?」
〇〇様は、心配そうに私を見つめる。
レイヴン「いえ……私は大丈夫です」
かろうじて笑みを浮かべながら、もう一度口を開いた。
レイヴン「私はこの店を見てみますから、〇〇様は向こうをお願いできますか?」
〇〇「えっ、でも……」
レイヴン「手分けして探しましょう。帰りが遅くなると、クロードが心配するかもしれません」
〇〇「わかりました」
彼女の背中を見送ると、私はガラスの向こうで咲く白い花をもう一度見つめる。
微かな光に導かれるように扉を開け、私は店の中に足を踏み入れた。
…
……
雪がすべての熱を奪っていく……あの時と同じように…-。
この世からすべての音が消えたように、辺りは静まり返っていた。
レイヴン「やはり……私は許されてはいなかった」
(死ぬことも生きることも許されず、彷徨い続けること……それが私への罰なのかもしれない)
〇〇「違う……違います!」
悲しみに満ちた瞳を見つめ返すことができなくて、彼女の体をきつく抱きしめる。
レイヴン「私は罪を重くしてしまいました。 ……あなたと過ごすひとときを望み、欲を肥大させてしまった。 あなたの笑顔を、優しい眼差しを、私にかけてくれる言葉を……求めすぎてしまった」
(特別な時間に甘え……あなたに、愛されたいと願ってしまった)
〇〇「レイヴンさん……鐘は鳴っています。私には聞こえています。 お願いです、罪の意識を解いて……鐘の音を聞いてください。 自分を、許してあげてください」
レイヴン「〇〇様……」
(どうしてあなたは……そんな嘘を吐くのですか?)
(優しい嘘を…-)
彼女まで罪人にしてしまうことが恐ろしいのに……私は腕を解くことができない。
(私はこの上、まだ罪を重ねるというのか……)
抑え込んでいた彼女への想いが、堰を切ったように溢れ出す。
レイヴン「あなたはいつか言いましたね。クリスマスには、大切な人と笑顔で過ごすと……。 私は今日、あなたにその幸せをもらいました」
(あなたと共に生きる未来は、きっと幸せなものなのでしょう……)
(すべての罪が許されたと錯覚してしまうくらいに)
(だからこそ、私は……あなたの手を取ることができなかった)
レイヴン「そしてその分、罰が下るのでしょう」
〇〇「そんな…-」
彼女は悲痛な表情を浮かべて、私を見上げる。
レイヴン「すみません……。 この審判が終わった後、あなたへ贈ろうと思っていました」
(白い花は私の罪の証……そして、あなたを求めてしまった私の心……)
彼女の手に白い花のネックレスをのせると、〇〇様は慈しむようにそれを手に包み込む。
(〇〇様が……愛おしい)
(狂ってしまいそうなほどに)
レイヴン「いかに罰が重くなろうとも……今だけは、あなたを想うことを止められない」
〇〇「レイヴンさん……」
レイヴン「私はすべての罰を受け入れる。だから、今だけは……」
〇〇「っ……」
罪深き想いのままに、彼女の唇を塞ぐ。
(〇〇……愛している……)
雪の檻の中で、冷え切った彼女の体を抱きしめる。
〇〇「レイヴンさん……名前を、呼んでください」
レイヴン「〇〇様……。 ……〇〇」
口づけを落とし、彼女の体を深く抱擁する。
その時…-。
レイヴン「……っ」
どこか遠く……遥か彼方で、鐘の音がわずかに聞こえた気がした。
けれど、意識が逸れたのも束の間……私はもう、〇〇のことしか考えられない。
過去も未来も忘れ、ただこの一瞬を胸に刻みつけた…-。
おわり。