私達以外、誰もいない図書室に零さんの嬉しそうな声が響く。
朔間零「さて、○○の嬢ちゃん。早速絵本を読んでもらうとしようかのう〜♪」
(零さん、楽しそうだな)
図書室に来た当初の目的は、零さんが元の世界に戻る手がかりを探すためだったのに・・・・
(零さんに絵本を読んであげることになるなんて・・・・)
机の上に絵本を開き、零さんは行儀よく椅子に座っている。
(やっぱり不思議な人)
古風な口調なのに、どこか子どもみたいな面もあって、目が離せない。
(そういえば、零さんは自分のことを『吸血鬼』だって言ってたけど、どこまで本当なのかな・・・・)
真紅の瞳をじっと見つめていると、零さんと目が合った。
朔間零「熱烈な視線じゃのう。穴が空くほど見つめられると照れるわい」
○○「す、すみません」
私は零さんに向かって頭を下げ、椅子に座る。
(なんでだろう、心臓がドキドキして・・・・)
深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、私は絵本を読み始めた・・・・ー。
○○「・・・・こうして、お姫様と王子様はいつまでも幸せに暮らしました。めでたしめでたし」
結びの言葉を告げると、零さんは満足げに頷いた。
朔間零「ふむ。よくあるお話じゃったが、なかなかに楽しめたのう。 これも嬢ちゃんのおかげじゃな、礼を言うぞい♪」
○○「い、いえ。私は絵本を読んだだけですから」
朔間零「いやいや、臨場感たっぷりに読んでくれたじゃろう? 特にお姫様が吸血鬼に襲われそうになるシーンは必聴じゃったな。 ・・・・思えば朝からご飯を食べてないからのう。 美味そうな小娘が近くにいると舌なめずりしてしまいそうじゃわい・・・・くっくっくっ♪」
○○「・・・・!」
零さんの瞳が妖しげに光り、息を呑む。
(零さんは・・・・本当に吸血鬼なの?でも、まさか・・・・ー)
けれど、そう思ったのも束の間、零さんは・・・・私の首筋に視線を落としている。
朔間零「さぁて、食事の時間じゃ。久方ぶりの血じゃからのう、ゆっくりゆっくり味わおうぞ・・・・♪」
○○「れ、零さん・・・・!」
(本当に・・・・!?)
どくんと、心臓が大きな音を立てる。
彼の瞳に絡めとられたように身動きが取れない。
○○「・・・・っ」
覚悟を決め、目をつむった瞬間・・・・
朔間零「冗談じゃよ、嬢ちゃん。怖がらせてしまって悪かったのう」
零さんは私から身を離し、申し訳なさそうに頭を垂れる。
(び、びっくりした・・・・)
顔を上げた時には、零さんはすでに別の本を探し始めていた。
(いったい、零さんって・・・・ー)
そっと首筋に手をあててみると・・・・
トクトクと脈打つ熱い鼓動が、私の体と心を震わせていたのだった・・・・ー。
おわり。