月最終話 その優しさを胸に

ロルフ君が、花を前に涙をこぼしている。

ふと、奥から流れ込む涼やかな風を感じた。

〇〇「ロルフ君……あの奥って出口じゃないかな」

ロルフ「…………」

〇〇「帰ろう、ロルフ君」

ロルフ「でも……」

〇〇「正直にお話したら、国王様はきっとわかってくれるよ」

小刻みに揺れる彼の肩に、そっと触れた。

〇〇「ね?」

ロルフ「はい……」

一言も言葉を交わさないまま城に着くと、私とロルフ君は国王様達に謁見した。

国王「ロルフ、王家の証はどうした?」

重く響き渡る国王様の声に、ロルフ君が肩を震わせる。

(がんばって、ロルフ君)

繋いだロルフ君の手をぎゅっと握る。

彼は涙をためた瞳で私に頷いた。

ロルフ「おっ、お花を見つけたけど……持って帰りませんでした」

国王「なぜだ?」

ロルフ「……摘み取ったら……かわいそうだから……」

ロルフ君の声は、次第に小さくなり、最後は涙に変わってしまう。

けれど…-。

国王「そうか……」

国王様は、どこか満足そうに微笑んだ。

王妃「ロルフ、それでいいのですよ。花を労わる優しさはとても素晴らしいわ」

ロルフ「ありがとう……ございます……」

(よかった……)

私達は国王様と王妃様に一礼をして、その場を後にした。

部屋に戻ろうとすると……

廊下で、二人の兵士さんとすれ違った。

兵士さん達は、通りがかる私達に頭を下げる。

(……?)

その瞳が、優しくロルフ君を見つめているような気がした…-。

二人の兵士が、国王に洞窟での出来事を報告しにやって来ていた。

国王「護衛、ご苦労だった」

兵士1「ロルフ様は、ご立派でした」

兵士2「壁が迫った時は、どうなるかと肝を冷やしましたが……」

兵士1「花がかわいそうと、本当にロルフ様らしく……。 お優しい王子が、城の者は皆好きです」

国王はその報告に、優しく目を細めるのだった…-。

部屋に戻ると、ようやくほっと息をつく。

ロルフ「……だいじょうぶ…でしたか?」

私の方を振り向いたロルフ君が、心配そうに私を見つめている。

〇〇「うん、ロルフ君のおかげで! ロルフ君、がんばったね!」

ロルフ「そうでしょうか……」

〇〇「だって、国王様も笑ってたよ」

ロルフ「〇〇ちゃん……」

ロルフ君が、揺れる瞳で私を見つめる。

そしてその瞳に、みるみるうちに涙が膨れ上がり…-。

ロルフ「っ……!」

〇〇「ロルフ君?」

彼はぎゅっと私に抱きつき、静かに泣き始めた。

ロルフ「〇〇ちゃん…ボク嬉しいです……」

〇〇「当たり前だよ。だってちゃんと王家の証も見つけたし。 ロルフ君じゃなきゃ、絶対にたどり着けなかったよ」

ロルフ君の背中を撫でながら囁くと、それは違うとでもいうように、彼は首を横に振った。

ロルフ「〇〇ちゃんがいてくれたから……」

〇〇「私は何も……」

ロルフ「そんなことない…です……。 〇〇ちゃんが、ずっと……励ましてくれたから……」

ロルフ君が、ゆっくりと私から離れた。

そして…-。

ロルフ「あの……。 好きな人には…こうするんですよね……?」

〇〇「え……?」

私が聞き返すと、ロルフ君は背伸びして……

〇〇「っ……!」

私の頬に柔らかなキスを落とした。

私は思わず見返すと、彼はほんのり赤く染まった顔で笑い返した。

ロルフ「お礼と……ボクの気持ちです……」

にっこりと笑う彼の瞳から、また一筋涙が流れ落ちた。

煌めくその涙を、まるで星のようだと思った…-。

おわり。

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