月9話 面倒な関係

すれ違う人全員が、唖然として私達を見ている…-。

(は、恥ずかしい……!)

ロイエさんは私を横抱きにしながら、ずんずんと先へと進んで行く。

〇〇「あの、ロイエさん。自分で歩けますから……!」

ロイエ「自分で歩けることなど分かっている。そうではないのだ。 今の君は、僕から逃げ出しそうな気配を出している。論理的ではない物言いでむず痒いが……。 よって、下ろすことはできない」

間近にある彼の視線が、真っ直ぐに私を射抜く。

〇〇「……っ」

その後も、じたばたと暴れてはみるものの、ロイエさんは私を抱き直すだけで、いっこうに動じることはなかった。

ロイエ「扉を開けろ」

部屋の前まで来た私達の姿を見て、立っていた侍従の男性が目を丸くしながら扉を開けた…-。

ロイエ「もう下がっていい」

部屋に入るとすぐに人払いをして……ようやく私を下ろしてくれた。

ロイエ「ふむ……存外、跳ねっ返りというやつか。なかなか苦労した。 頭脳労働が専門だったから体力のほうは、からきしなものでね」

どこか愉しげにロイエさんは言っているけれど、私は頬を真っ赤に染めながら、うつむくことしかできなかった。

ロイエ「さて、話してもらおうか。君が僕の誘いを断ろうとした理由を」

〇〇「……いえ、断ろうとは……」

ロイエ「していただろう? 君の視線は今、右下を見ていた。 人間は、自信のない時や都合が悪い時に視線が右下へ行くことが多いと言われている」

〇〇「そんな……」

ロイエ「僕が予想するに……君はトルゲに何か入れ知恵された。違うかな?」

〇〇「……!」

見透かされたようにそう言われ、反射的に顔を上げてしまう。

するとロイエさんは、ふっと小さく微笑んだ。

ロイエ「とても素直な反応だ。あいつは、何を企んでいる?」

〇〇「企んでいるなんて誤解です。トルゲさんは……」

途中まで言いかけて、言い淀む。

(どんなふうに伝えればいいか……わからない)

するとロイエさんは、知的な瞳を細めて静かに口を開いた。

ロイエ「……男と女の関係は面倒だな。 女一人でも面倒だというのに、そこに男が混ざり込むと理不尽にも程がある」

〇〇「……!」

(面倒……)

その一言が、私の胸に突き刺さる。

(もしかして私は違うのかなって……思ってたけど)

自分の思い上がりが恥ずかしくて、きゅっとスカートを握りしめる。

〇〇「ロイエさんはやっぱり、私のことも面倒だと思ってたんですね……」

込み上げる思いを抑えきれずに、気付けばそう口に出してしまっていた。

ロイエ「……」

ロイエさんが今どんな顔をしているのか……

それを知ることが怖くて、私は決して顔を上げることができなかった…-。

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