ファッションショー当日…-。
まばゆい照明が、煌びやかな衣装をまとうモデルさん達を照らし出している。
(もう少しで、スペルヴィアさんの出番……)
私はわくわくしながら、その時を待ちわびていた。
そして…-。
(あ……!)
スペルヴィアさんがランウェイに姿を見せた途端……
女性客達「スペルヴィア様―!!」
女性客達の黄色い歓声が会場に響く。
(すごい人気……)
堂々とランウェイを闊歩するスペルヴィアさんは、これまで登場したどのモデルさん達とも違う、特別な雰囲気を身にまとっている。
その圧倒的な存在感に、私は思わず息を呑んだ。
(スペルヴィアさん……すごいな)
(デザイナーもプロデューサーもやって、しかもモデルとしてもこんなに素敵で……)
鋭い眼差しを客席に向けるスペルヴィアさんは、見たことのないような凛々しい顔をしている。
そんな彼から、私は目を離せなくて…-。
(彼が輝いて見えるのは、照明のせいだけじゃなくて、きっと……)
どうしようもなく高鳴る胸を、手で押さえる。
〇〇「スペルヴィアさん……」
思わず声が漏れていたけれど……
私の声は、大勢の女性客達の歓声に掻き消されていた…-。
…
……
宿泊先の部屋の戻った私は、まだファッションショーの余韻に浸っていた。
スペルヴィアさんの凛々しい横顔が、頭から離れない。
(なんだか、遠い人みたいに思えたな……)
時計に目を移すと、自然とため息が漏れてしまう。
(打ち上げに誘われてるけど……私が行ってもいいのかな)
ランウェイを歩く彼の姿を思い出すと、どこか気が引けてしまう。
何度目かのため息を漏らしたその時、扉がノックされる音が聞こえた。
〇〇「……はい」
扉を開けると、そこにはいつも通りのスペルヴィアさんが立っていた。
スペルヴィア「お待たせ」
モデルとして彼を見た後だと、こうして立つ姿すら様になって見える。
スペルヴィア「何? どうしたの?」
思いがけず見つめていた私は、慌てて口を開く。
〇〇「いえ。あの、お疲れ様でした。すごく素敵なショーでした」
スペルヴィア「当たり前でしょ? プロデューサーはこのワタシよ?」
得意げに口の端を上げる彼は、私の知ってるスペルヴィアさんで……
〇〇「よかった……」
スペルヴィア「え?」
〇〇「いえ、なんでもないです」
私は慌てて首を振った。
スペルヴィア「おかしな子ね」
スペルヴィアさんの笑顔に、張りつめていたものが溶けていく。
スペルヴィア「ねえ、それより……アンタにプレゼントを持って来たわよ。 いいアイディアももらったし、アンタには助けられた。ありがと」
〇〇「アイディア……?」
―――――
スペルヴィア『ワタシが選ぶのが一番センス良くまとまるのは間違いないけど、それじゃ面白くないわよね。 決めた。 モデル本人にも、一着ずつ服を選ばせるわ!』
―――――
(あの時のことかな?)
スペルヴィア「アンタのおかげで、モデル達の個性も出たし、全体の印象も尖ったし、最高。褒めてあげる」
〇〇「いえ、私は何も。あれはスペルヴィアさんが…-」
スペルヴィア「いいからいいから」
スペルヴィアさんが楽しげな笑みを浮かべ、私の肩を抱く。
そのまま姿見の前まで連れていかれて…-。
〇〇「これ……!」
スペルヴィアさんが、ワンピースを私の体にあてがった。
スペルヴィア「ほら、やっぱりワタシの思った通り、よく似合う」
〇〇「すごく素敵ですけど……いいんですか?」
スペルヴィア「いいどころか、アンタのためにワタシが手を加えたのよ。もちろん受け取るでしょ?」
〇〇「でも、こんなに大人っぽい服…-」
スペルヴィア「……」
戸惑う私の耳元に、スペルヴィアさんが唇を寄せて…-。
スペルヴィア「まだそんなこと言ってんのかよ」
〇〇「……っ」
微かに笑う彼の低い声が耳元に響いて、言葉が喉につかえてしまう。
スペルヴィア「オレの隣に並ぶなら、このくらいの服、着こなしてもらわないと。 特別な女には、特別な服を…-」
鏡に映った彼の鋭い眼差しから、逃れられない。
その瞳はいつものスペルヴィアさんよりも、男らしくて…-。
スペルヴィア「そんなに驚いて……まさか男じゃないとでも思ってる?」
〇〇「そんなことは…-」
スペルヴィア「残念だけど、オレ、男だから。 この服を着たオマエのこと、脱がしたいと思うくらいには」
彼の囁きに、鼓動が激しく騒ぐ。
頬を真っ赤に染めた私の顔を見て、スペルヴィアさんは艶やかに微笑み…-。
スペルヴィア「今、着てみる?」
私の耳に、優しくキスを落とした。
〇〇「っ……」
彼は鏡の中の私を見つめ、ワンピースごと私を抱きしめる。
(さっきはあんなに遠くに感じてたのに……今はこんなにも近い……)
彼の甘い香りが、強張った私の心をすっかりほぐして……
胸元のリボンをほどく指を止めることもできないまま、私の肌は彼に暴かれていくのだった…-。
おわり。
<<月7話||