ランウェイの周りに大勢のスタッフさん達が集まる中心で……
スペルヴィアさんが、街で閃いたアイディアを皆に説明していた。
スペルヴィア「今からの変更で大変だとは思うけど、ショーを盛り上げるいいアイディアだと思うの」
スタッフさん達は顔を見合わせて囁き合ったけれど、その顔は和やかなもので…-。
スタッフ1「賛成です!」
スタッフ2「話題にもなりそうですし、おもしろそうですね!」
皆は笑顔でスペルヴィアさんの提案を受け入れていた。
(よかった……)
スペルヴィア「助かるわ。じゃあ、それぞれ自分の仕事して。ああ、それから……」
スペルヴィアさんが天井を指さす。
私も倣って見上げると、いくつかの色の照明がランウェイを照らしていた。
色が重なり合い、幻想的な雰囲気を醸し出している。
スペルヴィア「いい。ワタシのイメージ通り」
スペルヴィアさんの言葉に、スタッフさん達がわっと声を上げる。
スタッフ1「よかった……! ありがとうございます!」
スペルヴィア「次は最初からできるといいんだけど」
スタッフ1「任せてください!」
スペルヴィア「まったく、口だけは一人前なんだから」
スペルヴィアさんが苦笑すると、スタッフさんも嬉しそうに顔をほころばせる。
(なんだか、いい雰囲気)
これからさらに忙しくなるというのに、皆の間には楽しそうな空気が流れている…-。
(スペルヴィアさんだから、こんな雰囲気になるんだろうな)
皆の輪の中できびきびと指示を出すスペルヴィアをまぶしい思いで見つめていると……
スペルヴィア「〇〇」
〇〇「あ、はい」
不意に名前を呼ばれ、背筋が伸びる。
スペルヴィア「ちょっとこっち来て」
〇〇「……?」
彼に手招きをされ、首を傾げながらもついていくと…-。
連れていかれた場所は、ステージ裏だった。
そこにしつらえられた広々とした衣装置き場に、感嘆の声が漏れる。
〇〇「すごい……」
トルソーや壁に、衣装やアクセサリーが所狭しと飾られている。
〇〇「これ全部、ショーで使うんですか?」
スペルヴィア「ここに並んでいる服、全部ってわけじゃないわよ。 レディースもあるから、気に入ったものがあれば言って。あげる」
〇〇「え、でも……」
スペルヴィア「言ったでしょ。アンタに、プレゼント」
スペルヴィアさんがたくさんに衣装に視線を滑らせ、私もそれに倣う。
(どうしよう。こんなにたくさんあると迷う……)
スペルヴィア「ワタシ、仕事じゃない限り他人のファッションには口を出さないことにしてるんだけど……」
すぐ後ろから声がして、鏡越しにスペルヴィアさんと目が合う。
声が少し低くなったような気がして…-。
スペルヴィア「アンタには、ワタシの好きな服を着せてみたい」
〇〇「え……?」
振り向いた途端、スペルヴィアさんが私の頭に帽子をのせた。
スペルヴィア「ほーら、かわいい」
〇〇「スペルヴィアさん……」
スペルヴィアさんは小さく笑うと、近くにあったブラウスを手に取る。
スペルヴィア「これもアンタに似合いそうね」
楽しそうなのに、どこか真剣な眼差しに見えて、私は口をつぐんだ。
スペルヴィア「あ、これは一点ものだわ」
〇〇「そうなんですね」
スペルヴィア「販売されてるのもあるけど、これとか、これは……。 このショーもためにデザインした、世界で一つだけのアイテム」
スペルヴィアさんが、手に取ったいくつかの服を掲げて見せる。
(スペルヴィアさんがデザインした、世界で一つだけの……)
その言葉に、私は強く惹きつけられていた…-。