月SS 決意新たに

〇〇と別れた俺は、行き交う人達の間でふと足を止めた。

観覧車の中でのことを思い出して、火が出そうなほど顔が熱を持つ。

アヴィ「ったく……何やってんだ」

(旅の途中だってこと忘れて……俺はあいつに…-)

頭では理解しているものの、〇〇と一緒にいるとどうしても自制が利かなくなる。

アヴィ「……まったく、騎士の精神はどこにいっちまったんだ」

煌びやかな灯りが、否応なしに俺の気持ちを緩ませる。

少しだけならと、浮つく心が俺を惑わせた。

アヴィ「そんなことしても……あいつを困らせるだけだ」

(俺はあいつを守らないといけないのに……)

通りの向こうから賑やかな音楽が聞こえてくる。

アヴィ「パレード、始まったのか……」

ふと、置いてきた〇〇が気になった。

(あいつは……今、何を思ってるんだろう)

浮かんでくるのは、あの時の悲しげな〇〇の顔ばかりだ。

アヴィ「……くそっ!」

なぜか彼女がまだあの場にいて、泣いているような気がして……

俺は〇〇と別れた場所へ駆け出していた…-。

……

パレードが終わり、笑顔で帰っていく人達の流れの中……

俺は〇〇と、静けさを取り戻した道路を見つめていた。

(結局……見せてやることができなかった)

自分の不甲斐なさと、〇〇への申し訳なさが襲ってくる。

〇〇「……行こう? 皆、そろそろ集合場所へ来る頃だよ」

〇〇が強がりのような笑顔を浮かべて、パレード会場に背を向けた。

その華奢な背中がたまらなくなって、俺は…-。

〇〇「……っ!」

後ろから、〇〇を強く抱き寄せた。

〇〇「アヴィ……?」

腕の中に閉じ込めた〇〇の体が強張る。

アヴィ「……そんな顔するな。 駄目だってわかってるのに……触れたくて、たまらなくなる」

〇〇「え……?」

(お前への想いが……抑えきれなくなる)

(旅なんて忘れて、お前をなんの不安もない場所に連れて行ってやりたいって、思っちまう……)

腕の中で〇〇が振り向こうとする。

けれど俺は強く彼女を抱きしめ直し、それを制した。

アヴィ「見るな。今、たぶん俺……変な顔してる……」

〇〇「アヴィ……」

(きっと今、俺は……お前が欲しくてたまらないって顔をしてる……)

恥ずかしさを隠したくて彼女の首筋に顔をうずめても、そこから香る甘い匂いが余計に俺を困惑させる。

アヴィ「約束したから……。 旅が終わるまでは、ちゃんとお前をトロイメアの姫として守ってやんねえとって思ってる」

(アルストリアを旅立ったあの日……俺は何があってもお前を守るって決めた)

(なのに……)

鼓動が加速し、胸がどうしようもなく熱くなる。

アヴィ「けど、お前が辛そうな時とか、泣いてる時とか……かわいく笑った時とか……。 抱きしめたくて、たまらなくなるんだよ」

(いつだって俺は、お前に目を奪われる)

(気持ちを揺さぶられてるんだよ……)

アヴィ「独占したいって……お前の一番傍にいるのは、俺なんだって。 ……叫びたくなる時だってあるんだ」

〇〇「っ……!」

(あいつらにさえ、俺は嫉妬して……)

誰にも取られたくないと、子どもじみた思いをぶつけるように俺は〇〇を掻き抱く。

その思いに答えるように、〇〇…-。

〇〇「……抱きしめていてほしい」

彼女の囁くような声が、俺の中にわずかに残っていた枷を外してしまった。

(もうこの気持ちを偽る気なんてない)

(俺は、この想いを……〇〇を好きだという想いを胸に……)

アヴィ「……」

わずかに緩めた腕の中で、〇〇が振り返る。

アヴィ「〇〇……」

〇〇の指先が、たどたどしく俺の頬に触れる。

頬を滑る指先が、俺の胸を甘くくすぐった。

その感覚に誘われるように、俺はずっと触れたかった〇〇の頬に触れた。

(改めて誓う……今日、ここで)

決意を新たに、俺は深く息を吸い込む。

(これからも俺は、〇〇を守ってみせる)

そして、俺を見つめる愛しい人の瞳を、覗き込んだ…-。

おわり。

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