夕陽が差し込む海の中…―。
〇〇「止まってください!」
自分でも驚くほどに、きっぱりと告げた。
送りの使者「〇〇様……どうなさいました?」
私を抱いて泳いでくれていた使者さんが、泳ぐ足を止めてくれた。
(たくさん、好きだって言ってくれた)
(オリオンさんは強引だけど、いつだって真っ直ぐだった)
(私は、彼に何も返事をしてない)
〇〇「私、戻らなきゃ……オリオンさんのところに、戻らなきゃいけないんです。 ごめんなさい」
ぺこりと頭を下げると、使者の方は優しい微笑みを浮かべる。
送りの使者「では……戻りましょう。オリオン様が待っていらっしゃいます」
〇〇「はい……!」
(ちゃんと、返事をしよう)
(お礼も、お詫びも)
――――――――――
オリオン「俺は、後悔などしたくない」
――――――――――
(私も後悔は、したくない)
送りの使者「〇〇様、海底国に到着いたしました」
その声にはっと顔を上げる。
オリオン「〇〇……どうして……」
蒼白な顔をわずかに紅潮させ、オリオンさんが私を見つめている。
〇〇「私……」
(何を、言おうとしたんだっけ)
(伝えたいのに……)
感情が波のように押し寄せるけれど、私はそれを言葉にすることができない。
オリオン「俺から逃げたいんじゃなかったのか? 同情で看病していたんじゃないのか?」
その言葉に、胸の奥がひどく痛む。
その痛みは「違う」とはっきりと告げていて、
私は首を横に振った。
オリオン「じゃあ、どうして……」
〇〇「私……」
オリオンさんを見つめる。
(胸が痛かったのは、同情なんかじゃない)
(どうしていいかわからなかったんだ)
(大切な人を私のせいで傷つけてしまったから……)
まだ言葉にならないその気持ちは、きっと私の瞳に現れていて……
オリオン「……二度は、離さない。 好きだ……〇〇」
気がついた時には、私はオリオンさんの腕の中に抱きしめられていて……
安心したように息を一つ吐くと、オリオンさんはその場に倒れ込んでしまった。
〇〇「オリオンさん……!!」
…
……
その夜…―。
ベッドの上のオリオンさんは、照れ隠しなのか仏頂面で……
(看病できるのは、嬉しいんだけど)
オリオン「早くしろ」
(食事を食べさせるなんて、恥ずかしい)
美しく彩られた夕食のトレイを手に、私は恥じらいに目を瞬かせた。
〇〇「どうぞ……」
涼しげに盛りつけられた、クリーム色のお粥のようなものをスプーンですくい、差し出す。
オリオンさんは少し頬を赤らめながら、それを口にした。
オリオン「美味い」
(なんだか、可愛いかも)
オリオン「……何を笑っている」
〇〇「あ、いえ……!」
慌てる私を見て、オリオンさんがいつものように笑みをこぼす。
オリオン「もっとだ」
〇〇「は、はい」
急いでもう一さじすくうと、スプーンからこぼれてしまった。
私の人差し指にこぼれ落ちたその一さじを見やると、
〇〇「あ……っ」
オリオンさんは私の手を引き寄せ、その指を口に含んだ……
ゆっくりと舌を這わせ、それを舐めとっていく。
〇〇「……っ」
その感触に、思わず目をつむる。
オリオン「……顔が赤いな」
目を開けると、少し意地悪な笑みを浮かべたオリオンさんが、私を見つめていた。
(恥ずかしい……っ)
恥じらいからまつ毛を伏せると、オリオンさんは私の膝からお皿をどける。
オリオン「熱があるんじゃないか? 確かめてやろう」
そう言って、オリオンさんは私をベッドの上に抱き上げる。
〇〇「ね、熱なんかないですよ」
オリオンさんの上に馬乗りにさせられた私は、ますます頬が染まっていくことを感じた。
オリオン「大人しくしてろ」
楽しそうに笑いながら、オリオンさんは私の服のリボンに手をかけようとする。
〇〇「や……っ!オリオンさん! 具合が悪いのは、オリオンさんなのに……!」
その手を押しとどめると……
オリオン「逆らうのは逆効果だと、言ったはずだが。 俺の体調が心配なら……。 せいぜい、早く終わるよう大人しくしてろ」
(そんな……っ)
オリオンさんの言葉に、私は逆らうことができなくなってしまう。
オリオン「〇〇……愛してる」
私の服をそっと脱がしながら、オリオンさんは私の耳元に囁きかけた。
オリオン「愛してる」
まっすぐに胸に届く甘い響きに……
私の体から、力が抜けていく。
(私も……)
〇〇「んっ……」
その言葉を伝えようとした私の唇が、オリオンさんに奪われて…―。
背中が、ベッドに押し当てられた。
オリオン「二度と離さない」
〇〇「オリオンさ…―」
オリオンさんの舌が私の唇を割り、息継ぎもできないほどの口づけが繰り返される。
〇〇「オリオンさん……っ」
オリオン「……何だ」
あらわになった私の肌を指で撫でながら、オリオンさんが微笑む。
〇〇「私も……好きです」
そう言うと、彼は満足そうに笑って私の胸元に顔を寄せた。
〇〇「あ……」
長い髪がさらりと私の素肌に落ち、そのくすぐったい感覚に彼の肩をぎゅっと掴んでしまう。
オリオン「もう一度、言え」
〇〇「好き……です……」
深い、深い海の底で……
やっと私の心からこぼれ出た言葉。
その言葉と一緒に、私は全身に感じる甘い痺れに溺れていった…―。