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医師「オリオン様は、ご自分の首を掻き切られ、血をあなたに与えたのです……」
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その一週間後…―。
きらきらと水が輝き、歌うような波の音が耳を撫でる朝…―。
〇〇「おはようございます、オリオンさん」
私は、3日前に目覚めたオリオンさんから、片時も離れることなく看病をしていた。
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〇〇「どういう、ことですか……?」
傷を負ったオリオンさんを愕然と見つめながら、お医者様と思われる男性に尋ねた。
オリオン「ただし、地上に戻る力を得るには……より濃密な海底人とのつながりが求められる。 子を成すことだ」
〇〇「シャボンの外に出るためには、海底人との子どもを産む必要があると、聞きました」
医師「……もう一つだけ、方法があるのです。 海底人の血を大量に浴びれば、力を得ることができます」
〇〇「えっ……!」
(じゃあ、オリオンさんは私のために、自分を傷つけて!?)
(オリオンさんの血で、私は助かったんだ……)
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〇〇「今日は、とっても水がきらきらしてますよ。きっと地上は晴れなんですね」
私はオリオンさんに明るく笑いかける。
オリオン「ああ……」
〇〇「どうしたんですか?元気がないみたい……」
片時も離れない私に、初めは嬉しそうに笑ってくれていたオリオンさんだったけど、近頃は、その表情にどこかかげりがあった。
(どうしたんだろう)
不思議に思いながらも、私は日課となったオリオンさんのお世話をし続けた。
胸の奥を刺す、小さな痛みを隠して…―。
…
……
午後…―。
〇〇「今日はお魚がすごく多いですね」
柔らかな地面に座り、色とりどりの美しい魚の行列に目を細めていると、
オリオン「……お前さ」
弱々しい声で、オリオンさんがぽつりとつぶやいた。
オリオン「もう、力は持ってるんだ。 わかってるのか?もう、帰れるんだよ」
〇〇「……はい」
オリオン「なら、帰れ……同情で傍にいられても、惨めなだけだ」
(同情……?)
オリオン「前までのお前は俺の思い通りにはならなかったが。 少なくとも、そんな顔はしてなかっただろ」
〇〇「え……?」
オリオン「……そんなに悲しそうに笑わないでくれ。 お前は、きっと、俺が血をお前にやったことを気にしてるんだろ? これは、俺が好きでやったことだ……お前が気に病むことじゃない。 だから……いいんだよ。 好いた女のそんな顔を見るのは、胸が痛む」
(悲しそうに、見えた……?)
(私、そんなつもりは)
(じゃあ、どんなつもりで看病してたんだろう……?)
(元気になってほしくて看病していたのは本当だけど)
(罪滅ぼしじゃなかったって……言えるのかな)
オリオン「帰れ……俺の気が変わる前に」
オリオンさんの言葉を、私は否定することができない。
胸の奥を刺す痛みは、どんどんと強さを増していくようだった…―。