月最終話 病の正体

日も暮れかけた中、私とトトリさんは森の中に小さな宿を見つけた。

トトリ「よかったですね。一部屋だけですが、空いていて」

嬉しそうにトトリさんが目を細める。

けれど…-。

〇〇「そ……そうですね」

私の胸は、さっきから騒がしくてしょうがない。

(トトリさんと一緒の部屋だなんて……それに)

部屋の奥に視線を向けると……

(露天風呂がついてる……)

ちいさな露天風呂が、ほかほかと温かそうな湯気を立てている。

トトリ「……」

(一緒に入るわけじゃないけど……なんでこんなにドキドキして)

熱くなる頬に手を添えようとすると、その手がトトリさんに取られた。

トトリ「一緒に入りますか?」

〇〇「えっ!?」

思いがけず囁かれた言葉に、頬がますます紅潮していく。

思わず息を呑むと、トトリさんはおかしそうに笑みを漏らした。

トトリ「すみません、冗談です。〇〇さんの反応がかわしらしいから、つい」

トトリさんの手が、私から離れていく…-。

(あ……)

それがどうしようもなく寂しくて、気づくと彼の手を握っていた。

トトリ「……〇〇さん?」

〇〇「一緒に、入ります」

トトリ「え?」

驚いたようなトトリさんの目が、私に向けられる。

(恥ずかしい……でも)

胸に疼く甘い感情が、私を駆り立てた。

(私は、トトリさんのことが…-)

じっと見つめられて言葉をなくす私に、トトリさんは静かに尋ねる。

トトリ「それは……わたしのことを好いてくれている、ということでいいでしょうか?」

改めて言われ、心臓が跳ねる。

けれど私は思いきって頷いた。

〇〇「……はい」

トトリ「そうですか」

辺りが急に静かになったように思えた。

露天風呂に注がれるお湯の音だけが、妙に響いて……

〇〇「……あの」

たまらずに、口を開きかけた時…-。

トトリ「思い出しました。この温泉郷には恋に効く温泉があるそうです」

〇〇「え……?」

トトリさんは、嬉しそうに微笑んでいた。

トトリ「けれどもう、わたしがそこに行く必要はなくなったようです」

〇〇「どういう、ことですか?」

トトリさんの手のひらが、私の頬を包み込み……

指先が、そっと私の唇をなぞる。

トトリ「わたしの病は……君への恋煩い、だったんですよ」

鼓動の高鳴りを感じながら、私は息を呑んだ…-。

……

想いが、トトリさんに伝わった…-。

それはとても嬉しかったのだけれど、やっぱり少し恥ずかしい。

(先に入ってます、って言って来てしまったけど……)

(恥ずかしがるなんて子どもだと思われて……また妹みたいって言われちゃうかな)

けれど、どうしても緊張してしまって……

(トトリさん、もうすぐかな。ずっとドキドキしてる……)

(頭も、ぼんやりとして……なんだか、ちょっとふわふわする……)

おかしいな、と思った次の瞬間……

(あ……)

すうっと、私の意識は遠のいていった…-。

??「〇〇さん……」

(誰かに、呼ばれてる……?)

??「〇〇さん、しっかりしてください」

(なんだか、あったかくて、気持ちいい……)

??「〇〇さん…-」

呼びかけられて、ハッと目を覚ます。

すると、目の前には私の顔を覗き込む美しい瞳があった。

〇〇「トトリさん……?」

トトリ「よかった。目が覚めましたか?」

〇〇「あれ、私……」

トトリ「のぼせてしまったようです。大丈夫ですか?」

尋ねられて、ようやくすべてを思い出した。

(私、トトリさんを待っている間にのぼせちゃったんだ……)

トトリ「すみません、突然一緒にお風呂だなんて、無理をさせてしまいましたよね」

〇〇「違うんです……! 嫌だったとかじゃなくて、恥ずかしかっただけで……。 トトリさんとせっかく恋人同士になれたのに、また妹のようだと思われたくなくて……」

トトリ「〇〇さん……」

トトリさんは優しく私の頭を撫でると、安心させるように微笑んでくれた。

トトリ「大丈夫ですよ。妹だなんて思いませんし、思ってもいません。 だから、安心してください」

私の頬に手を添えながら、トトリさんが顔を近づける。

間近に迫った唇が、静かに開き……

トトリ「……君は、わたしの大切な女性です」

囁くと同時に、唇が覆われた。

〇〇「……っ!」

トトリ「わかっていただけましたか?」

向けられた甘く優しい視線に、呆然としたまま頷いた。

〇〇「はい……」

唇に寄せられた温もりが、じんわりと体に染み渡っていく。

胸の想いを確かめるように、私はそっと目を閉じたのだった…-。

おわり。

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