ダグラスさんのエスコートで到着したホテルの最上階にあったのは…-。
豪奢な作りの部屋がいくつも用意されたスイートルームだった。
(すごい……)
その広い部屋を照らす照明の穏やかさに、なぜだか逆に緊張を覚えてしまう。
ダグラス「ほら、大丈夫だから」
〇〇「あっ……ダグラスさん」
彼は苦笑を浮かべながら、私の肩を軽く叩いて、ソファーへ座るように促した。
ダグラス「さ、どうぞ」
ウェルカムドリンクとして用意されたスパークリングワインを、慣れた所作でフロートグラスに注いで私へと差し出す。
〇〇「ありがとうございます……」
同じソファーに深く腰かけ、カチャリとグラスを打ち鳴らす。
グラスの口をつけると、ほのかな熱がのどを通り過ぎていった。
〇〇「おいしい……!」
ダグラス「気に入ったみたいだね?」
〇〇「はい……」
ダグラス「けど、まだ緊張は解れないか?」
〇〇「あ……いえ、大丈夫です!」
思わず声を裏返らせた私の髪を、ダグラスさんは優しい手つきで撫でた。
ダグラス「いや、いいよ。そんな君もかわいいからね」
〇〇「……っ」
そのまま、ワインの香る唇が私のまぶたに落とされて…-。
ダグラス「先にシャワー、浴びてくる?」
余裕のある表情で問いかけられるけれど、私の頭はほとんど何も考えられない。
〇〇「……はい」
私は緊張で頭が真っ白になったままバスルームへと向かったのだった…-。
(どうしよう。全然落ち着かない。胸がずっと騒がしいまま……)
(でも……返事をしてしまったのは、私自身だ)
(……ダグラスさんに、見損なわれたくない)
意を決して、私はバスルームに足を踏み入れ、服を脱いで、浴槽の中でシャワーのコックを捻った…-。
…
……
けれど…-。
(頭が、ぼうっとする)
いろいろな思いが頭を巡り、バスルームから出ることができないでいる。
(ダグラスさん……)
その人を思い浮かべていた時、不意にシャワールームのカーテンが開く音がした。
〇〇「え……?」
振り向いた私の視線の先に立っていたのは…-。
〇〇「えっ! だ、ダグラスさん?」
シャワーカーテンの間から、ダグラスさんが顔を覗かせていた。
〇〇「……っ!」
慌ててバスタオルを掴み、体を隠すように抱き込むと…-。
ダグラス「……君はいつまで俺を待たせる気かな? あんまり遅くて心配だから、こうして様子を見に来てしまったよ」
〇〇「あ、ええと……!」
(そんなに時間が経ってた……?)
ダグラス「……ごめん、今のは嘘。本当は待ってられなかった。 ……って言ったら、怒るかな?」
〇〇「ま、待ってください! 今出ますから…-」
ダグラス「……そんなに慌てちゃって」
背を向けようとした私の腕を、ダグラスさんがぐいっと掴む。
〇〇「……っ!」
ダグラス「海賊稼業はお休みして、もてなすって言ったけど……俺はやっぱり海賊だから」
近づいてきた声が、私の耳元を深くくすぐる。
〇〇「それはどういう意味で…-」
ダグラス「君のすべてが欲しいんだ……」
私の言葉を遮って、ダグラスさんの声がバスルームに響く。
シャワーヘッドからの流れるお湯の音と彼の声……
柔らかな湯気に包まれて私の耳に反響する。
〇〇「あ、あの……」
(どうしよう、本当に……)
唇に浮かぶのは、魅惑的な大人の笑み。
そして海賊だと彼自ら言う通り、力強さをたたえる緑色の瞳…-。
ダグラス「真っ赤だね。〇〇」
〇〇「っ、見ないでください!」
うなじに彼の視線を感じて、私はそっとうつむいた。
ダグラス「……俺に見つめられるのは嫌?」
〇〇「……嫌じゃないけれど、恥ずかしいので」
途切れ途切れになってようやく口に出すと、柔らかな笑い声が彼から漏れたのが、聴こえてきた。
ダグラス「やっぱりかわいいよ……。 ――〇〇」
〇〇「あ……」
掴まれた腕が、さらに強く彼に引かれて…-。
お湯の流れる音だけが湯気のこもったバスルームに響く…-。
そんな中、とびきり甘く響いた彼の言葉は…-。
ダグラス「……好きだ」
白い湯気が立ち込める中……
息もできないくらい深く口づけられた私の頭は、熱に浮かされどうにかなってしまいそうだった…-。
おわり。