那由多さんのお手伝いをすることになった私は、さっそく湯冶客を出迎える仕事を任された。
○○「ようこそ、こちらでございます!」
初めての体験に緊張する私の横で、那由多さんは慣れた様子で湯冶客の皆さんを案内する。
那由多「お、いらっしゃ~い。また腰痛めて大変だな。ゆっくりしていって」
何度か来たことのある人や、初めて廻天を訪れる人、いろんな人が次々にやってくる。
○○「こちらで受付をいたします」
私は那由多さんに教えられた通り、許可書と名簿を照らし合わせる。
那由多「3名様、極楽の湯へご案内!」
(限られた人のしか入られないって、言ってたけど…)
受付は順番を待つ湯冶客の人々で、すぐに溢れてしまった。
(こんなにたくさんの人を、毎日受け入れているなんて…)
那由多さんの仕事ぶりに感心していると、杖をついた年配の湯冶客の姿が見えた。
○○「あ、お手伝いしますね。どうぞ」
(那由多さんが大切にしている湯冶客の皆さんだから)
(私も心を込めてご案内したい)
那由多さんを見習って、湯冶客の人達に声をかけながらお手伝いをしていると…
那由多「○○、ちょっと!」
呼ばれて行くと、私と同じ年頃の女性客が二人、ただずんでいた。
那由多「こちらの姉妹、恋の病の湯へ案内するからついて来て」
那由多さんは、私の耳元でそう囁いた…ー。
…
……
私達は姉妹のお客様を連れ、恋の病に効くという温泉へとやってきた。
那由多「本日、お客様にご案内するのはこちらの温泉。恋の病に効く湯となります」
那由多さんの言葉を聞いて、姉妹のお客様は目を丸くした。
妹「…恋の病?」
姉「なっ…ふざけているんですか!?恋だなんて、関係ないです!」
そう言って、お姉さんが怒り出す。
妹「落ち着いて、姉さん。那由多王子はちゃんと、お考えになって案内してくれたのよ」
(お姉さん、いったいどこが悪いんだろう?)
妹「王子、失礼をお許しください」
那由多「や、全然気にしてないから」
那由多さんは、涼しい顔で尻尾を揺らしている。
妹「何度か湯冶に来て、姉の病はもう良くなったとお医者様に言われたのですが…」
姉「全然良くなってないわ、だから湯冶なんて意味がないって、言ってるのに」
(何か…訳ありな感じだけど)
○○「あの、別の温泉をご紹介した方が」
私は那由多さんに小声で聞いてみる。
那由多「大丈夫。この湯がぴったりだから」
心配する私の横で、那由多さんが笑みを深くする。
那由多「じゃ、こちらで案内!」
○○「…あの、これをお使いください」
私は緊張しつつ、姉妹のお客様に湯浴み用の浴衣と手ぬぐいを渡す。
妹「ありがとうございます」
けれどお姉さんの方は受け取らずに、そっぽを向いてしまって…
(どうしよう。大丈夫かな…)
那由多「じゃ、○○。後はよろしく!」
○○「えっ!あの…ー」
慌てて、彼に向かって手を伸ばすものの…
那由多「大丈夫!」
私の手は宙を泳ぎ、那由多さんはそのまま去ってしまったのだった…ー。