月7話 訳ありな姉妹

那由多さんのお手伝いをすることになった私は、さっそく湯冶客を出迎える仕事を任された。

○○「ようこそ、こちらでございます!」

初めての体験に緊張する私の横で、那由多さんは慣れた様子で湯冶客の皆さんを案内する。

那由多「お、いらっしゃ~い。また腰痛めて大変だな。ゆっくりしていって」

何度か来たことのある人や、初めて廻天を訪れる人、いろんな人が次々にやってくる。

○○「こちらで受付をいたします」

私は那由多さんに教えられた通り、許可書と名簿を照らし合わせる。

那由多「3名様、極楽の湯へご案内!」

(限られた人のしか入られないって、言ってたけど…)

受付は順番を待つ湯冶客の人々で、すぐに溢れてしまった。

(こんなにたくさんの人を、毎日受け入れているなんて…)

那由多さんの仕事ぶりに感心していると、杖をついた年配の湯冶客の姿が見えた。

○○「あ、お手伝いしますね。どうぞ」

(那由多さんが大切にしている湯冶客の皆さんだから)

(私も心を込めてご案内したい)

那由多さんを見習って、湯冶客の人達に声をかけながらお手伝いをしていると…

那由多「○○、ちょっと!」

呼ばれて行くと、私と同じ年頃の女性客が二人、ただずんでいた。

那由多「こちらの姉妹、恋の病の湯へ案内するからついて来て」

那由多さんは、私の耳元でそう囁いた…ー。

……

私達は姉妹のお客様を連れ、恋の病に効くという温泉へとやってきた。

那由多「本日、お客様にご案内するのはこちらの温泉。恋の病に効く湯となります」

那由多さんの言葉を聞いて、姉妹のお客様は目を丸くした。

妹「…恋の病?」

姉「なっ…ふざけているんですか!?恋だなんて、関係ないです!」

そう言って、お姉さんが怒り出す。

妹「落ち着いて、姉さん。那由多王子はちゃんと、お考えになって案内してくれたのよ」

(お姉さん、いったいどこが悪いんだろう?)

妹「王子、失礼をお許しください」

那由多「や、全然気にしてないから」

那由多さんは、涼しい顔で尻尾を揺らしている。

妹「何度か湯冶に来て、姉の病はもう良くなったとお医者様に言われたのですが…」

姉「全然良くなってないわ、だから湯冶なんて意味がないって、言ってるのに」

(何か…訳ありな感じだけど)

○○「あの、別の温泉をご紹介した方が」

私は那由多さんに小声で聞いてみる。

那由多「大丈夫。この湯がぴったりだから」

心配する私の横で、那由多さんが笑みを深くする。

那由多「じゃ、こちらで案内!」

○○「…あの、これをお使いください」

私は緊張しつつ、姉妹のお客様に湯浴み用の浴衣と手ぬぐいを渡す。

妹「ありがとうございます」

けれどお姉さんの方は受け取らずに、そっぽを向いてしまって…

(どうしよう。大丈夫かな…)

那由多「じゃ、○○。後はよろしく!」

○○「えっ!あの…ー」

慌てて、彼に向かって手を伸ばすものの…

那由多「大丈夫!」

私の手は宙を泳ぎ、那由多さんはそのまま去ってしまったのだった…ー。

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